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外国人介護人材に関する動向2

2015(平成27)年3月、本サイトに「外国人介護人材に関する動向」と題して、当時閣議決定し、その年の通常国会で議論される外国人介護人材をめぐる論点を提示した。残念ながら2015年度中の通常国会、臨時国会では政策の意思決定はなされなかった。

1.はじめに

2015(平成27)年3月、本サイトに「外国人介護人材に関する動向」と題して、当時閣議決定し、その年の通常国会で議論される外国人介護人材をめぐる論点を提示した。残念ながら2015年度中の通常国会、臨時国会では政策の意思決定はなされなかった。 継続審議となった外国人介護人材に関する「出入国管理及び難民認定法(改正入管法)」が、本年2016(平成28)年10月25日に衆院本会議で可決、同11月18日に参院本会議で可決した。同時に「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(適正化法)」が可決した。これにより日本は、介護人材不足の一つの解決策を外国人労働力に委ねる方向に舵を切ることとなった。 そこで本稿では、外国人介護人材における「改正入管法」と「適正化法」の要点と論点を整理することとする。


2.「改正入管法」及び「適正化法案」の概要

①「出入国管理及び難民認定法(改正入管法)」の要点
介護に従事する外国人の受入れについて、介護福祉士の国家資格を有する者を対象とする新たな在留資格「介護」が創設される。「日本再興戦略」改訂2014にて外国人留学生の卒業後の進路に介護を設定する提案がなされており、実現した格好だ。養成施設(日本語学校や専門学校等)で介護技術と語学習得後、介護福祉士の国家資格に合格した者の在留資格を「介護」に切り替え就職できるルートが誕生する。また、偽装滞在者対策の強化として、罰則が整備され、在留資格取消事由が拡充されるなどの措置が講じられる。特に在留資格取消事由の拡充等においては、在留資格外の活動を行うものに対して取消ができるようになる。2016(平成28)年11月28日の公布日から1年以内に施行する。
②「外国人の技能実習の適正な実施及び技能実習生の保護に関する法律(適正化法)」の要点
省令改正により技能実習制度の対象職種に介護を新設する。適正化法では、技能実習制度の適正化として、技能実習計画が認定制となり、実習実施者は届出制となる。また、監理団体は許可制となり、悪徳団体は許可取消し対象となる。技能実習生に対する人権侵害行為に対し罰則が規定される。国際研修協力機構(JITCO)に代わり、受け入れ団体や研修実施機関(雇用先の企業)を監督する認可法人、外国人技能実習機構を新設する。技能実習制度の拡充として、優良な実習実施者・監理団体に限り、実習期間を最長3年から最長5年に延長する。2016(平成28)年11月28日の公布日から1年以内に施行する。


3.「改正入管法」及び「適正化法」により新設される在留資格

 両法案の可決により、外国人介護人材として在留資格が新設され、技能実習制度に介護が加わることになり、不足する介護人材の獲得ルートがさらに拡大する見込みとなった。介護分野で就労が認められている在留資格として、これまでも定住者、永住者、日本人の配偶者等(身分に基づき在留する者)、留学生(資格外活動)の週28時間までのアルバイト、EPA(経済連携協力)によるインドネシア、フィリピン、ベトナムからの介護人材(特定活動)が存在している。今回の法案成立により新たに在留資格「介護」(就労目的で在留が認められる者)、介護技能実習生(技能実習)が加わり、出身地域にかかわらず、日本の国家資格取得者や技能実習生として介護人材の確保ができるようになった。
このことが意味するのは、厚労省の試算で2025年(平成37年)に約30万人以上の介護人材が不足するとの予測に対して、解決策の一つに外国人労働力を活用するという明確な政府の方針が打ち出されたということである。日本政府はこれまで、単純労働者の入国を原則認めていないが、人手不足が著しい産業では実質的な移民政策ともとれる規制緩和を探ってきている。例えば技能実習制度では、法改正をすることなく省令により職種が追加できるため、本年2016(平成28)年4月には、ビルメンテナンスや自動車整備が新たに職種として追加された。また、技能実習制度の枠組みとは別に、建設業界で2国間協定を使った受入れ拡大を検討し、農業では経済特区の枠組みを活用した受入れ解禁を模索している。


4.在留資格「介護」の論点

 それではまず、新設される在留資格「介護」についての論点を整理してみたい。現行制度では、外国人が日本の国家資格を取得しても介護職での就職はできなかった。なぜなら在留資格に介護が存在していないからだ。同様の問題は他の職種にもみられる。例えば理美容系の専門学校に留学する外国人が日本で理容師や美容師免許を取得したとしても、理容師や美容師として就職することができない。外国人の単純労働を認めない、移民政策はとらないという政府方針により、介護職は在留資格にはなり得なかったのだ。しかし、今回の改正により、介護サービスの質の担保と外国人労働力の活用を兼ねた在留資格として介護が認められるようになった。ようやく介護は高度な職種として認められたと解釈できるようになった。または、そうせざるを得ないほど人材が不足していると受け取れるようになったのである。
 後述する介護技能実習生の問題点に対して、政府はこの在留資格「介護」を増やしたいのではないかと予測する。つまり、まずは留学生ビザで入国し、日本の専門機関で学ぶ学生が国家資格を取得し、在留資格を介護に切り替えて就職する人材だ。このような人材は、ある程度の期間を日本で暮らし、日本語を学び、技術を学び、国家試験を受験し、就職をする人材だ。これらの人材は、日本語や日本文化理解の問題、技術の問題などの雇用側のリスクをある程度軽減させることができると見込める人材だ。
 しかしながら日本で学ぶためには資金が必用となる。在留資格「介護」を取得すると想定される留学生は、EPA(経済連携協定)のように多額の補助金を拠出して人材を育成するものではない。介護職は相対的に「低賃金」、「仕事がきつい」、「社会的な地位が低い」(介護労働安定センター「介護労働実態調査2013年度」)と認知されている職種である。わざわざそのような業界に就職するために学費を支払う留学生がどれほどいるだろうか。また、資格取得できる能力のある人材が、他の業界職種ではなく、あえて介護職を選択するだろうか。日本で就職を希望する留学生の半数程度しか実際には就職していない現状を踏まえれば、就職できなかった留学生が留学期間終了後も就職活動延長の為に切り替える特定活動(大学等を卒業した留学生が、卒業後、「就職活動」を行うことを希望する場合)での在留期間内に、国家資格取得のための集中教育を受けることにより資格を取得し、介護就労者を増やすことが可能かもしれないが、推して知るべし、である。
 在留資格「介護」は、外国人であっても日本の国家資格取得をすれば永続的に働ける機会が得られる点ではとても評価でき、介護職が専門性の高い仕事であることの証明にもなる。ただし、日本人と同様に、介護職に対するネガティブなイメージの払拭や、実態としての「きつくて安い仕事」を改善しない限り、外国人労働力を活用しようとしても、とうてい人材不足を解消できることにはならない。


5.介護技能実習生の論点

 次に介護技能実習制度の論点を見ていきたい。「外国人介護人材に関する動向(2015.03.20)」からの再掲となるが、「技能実習制度とは、公益財団法人国際研修協力機構によれば「最長3年の期間において、技能実習生が雇用関係の下、日本の産業・職業上の技能等の修得・習熟をすることを内容とするもの」と定義している。国際協力・国際貢献のもと、実習生へ技能を移転し、経済発展を担う人材を育成することが目的となる」。本来の目的に照らせば、介護分野においても技術移転が目的の国際貢献ということになるが、実態は人手不足解消という性格が強いものと思われる。EPA(経済連携協定)による外国人介護人材の登用を前例として、EPA協定批准国以外の国からも介護人材を受け入れの門戸を開くということであろう。
 介護技能実習制度の成立までには当初の想定よりも1年以上も待たなければならなかった。その背景には慎重にならざるを得ない点が存在していた。それは、対人サービス職種で初となる技能実習制度の検討という点だ。公益財団法人国際研修協力機構によれば、これまでの技能実習制度の職種や作業の範囲として7つの分類がされている。つまり、農業、漁業、建設、食品製造、繊維・衣服、機械・金属、その他(家具製作、印刷、製本、プラスチック成形、塗装、溶接、工業包装、紙器・段ボール製造、陶磁器工業製品製造、自動車整備、ビルクリーニング)である。一つとして対人サービスを提供する職種ではなかった。このため介護職における日本語力の問題や、研修実施機関における育成、運用に多くの懸念が存在し、2014(平成26)年6月に閣議決定された日本再興戦略(改定2014)で「外国人技能実習制度の見直しによる対象職種への介護職の追加と介護福祉士の国家資格を取得した外国人の就労」が掲げられて以降、「技能実習制度見直しに関する法務省・厚生労働省合同有識者懇談会」と「外国人介護人材受入れの在り方に関する検討会(厚生労働省)」により議論が重ねられてきたのだ。
 法改正は意思決定されたが、まだ細部に課題や曖昧さを残している。一つ目は実習生の日本語力の問題である。これまでの技能実習制度と異なり、介護技能実習生には来日時に日本語能力検定試験のN4程度の日本語力を課すとされている。また、1年間の実習終了時に技能実習を継続するために、通常は技術試験を受験し、合格すれば3年目までビザが延長できる制度を運用しているが、介護技能実習生にはこの申請時に日本語能力検定試験のN3程度の能力を課すといわれている。この「程度」の判定基準や判定方法は不明とされているため形骸化することが懸念される。
 二つ目は国内研修の達成目標の曖昧さである。これまで技能実習生が来日すると1カ月間の日本語研修が義務づけられていた。今回の介護技能実習生は、来日後2カ月の集中日本語研修の実施が義務付けられることになりそうだ。しかしながらこれまでの技能実習制度と同様、その期間における具体的な達成目標は設定されておらず、現行制度同様に各監理団体(組合等)の研修制度に委ねられることとなろう。
 三つ目は、研修実施機関(受け入れ企業)の実習実施計画に日本語学習計画が盛り込まれる点だ。二点目の指摘同様に、達成目標が設定されていない。介護で使用する日本語は、一般的な日本語能力を測る日本語能力検定試験の頻出単語と必ずしも合致するわけではない。監理団体や研修実施機関など必ずしも日本語指導を専門としていない組織に実習生の日本語指導を任されている状況だ。
 上記三点を課題としてあげたが、対人サービス従事者となる技能実習制度の課題は、まだまだ数多く残されている。実習期間が最長3年から同5年に延長されるなか、これまで以上に日本語力の問題や生活者としての実習生という問題が噴出するのは必至である。
 一方で今回の法改正では、現行の技能実習制度を改善するものも含まれている。それは技能実習生の人権を守り、制度を適切に実施するという点である。これまでは、現地の送り出し機関と研修実施機関(受け入れ企業)をつなぐ監理団体(組合等)を監督してきた公益財団法人国際研修協力機構(JITCO)が解散し、認可法人の外国人技能実習機構が新設されることになった。現状では、長時間労働を強制し、決められた残業手当を支給しない、パスポートを取り上げる、携帯電話やスマートホン等の情報デバイスを禁止するなどの非人道的な行為を続ける劣悪な監理団体や研修実施機関に対する取り締まり権や罰則の強制力がなかったため、実態が把握できても改善されないという問題が存在していた。新機構では、人権侵害に罰則を設け、取り締まる権限が付与される見込みだ。また、技能実習生ごとの実習計画を認定制とし、受け入れる監理団体は許可制に、研修実施機関は届出制にする、報酬は日本人が従事する場合と同等額以上とするなども設けられている。実習実施期間の延長は優良な監理団体でなければできなくなるため、技能実習生から多額の保証金を徴収する現地の悪徳ブローカー問題に対しても、監理団体側の自助努力により改善されるものと思われる。
 また、今回の制度では規定されてはいないが極めて重要な点が検討されることになっている。技能実習制度全体で初となる、実習期間後も永続的に日本で就業できる制度の検討である。現行制度では、技能実習はあくまでも研修である。英文では「インターンシップ」と表記されている。このため研修期間終了後は必ず送り出し国に帰国しなければならなかった。新制度が実現すると、技能実習生が実習期間中に国家資格に合格するなどのしかるべき技術力の証明ができ、本人が望み、就業先が見つかれば、在留資格を技能実習から介護に変更し、永続的に専門性の高い人材として日本で就労する機会が得られることになる。
 この制度が実現すると、技能実習生は、日本に残るという選択肢を手にし、受け入れ企業は、直接雇用できる選択肢を手に入れることになる。現行制度の課題の一つに、出稼ぎと割り切り技術が身につかなくても給与が支払われればよいという実習生の問題や、必ず帰国する人材に対し本気で育成すべきかという企業の問題を上手に改善できる制度となる可能性を秘めている。また、実習生が継続して労働者として日本に住み続けることができるということは、日本が移民を受け入れるということになる。この議論が移民政策議論となることは容易に予測できる。


6.まとめ

 2025(平成37)年に約30万人の介護人材が不足する。圧倒的に不足する介護人材に対し、外国人労働力を活用するという流れは必然であり、ようやく日本政府はその意思決定をした。制度の運用を巡り、多くの課題や、制度自体への批判も多い。実際に制度設計の細部はこれから決定されるという現状もある。現場職員の混乱やサービス利用者の不満もあろう。しかしながら、深刻な人手不足を解決するためには、現実を受け入れなければならない。外国人介護人材をいかに適切に受け入れるかをあらゆる関係者が真剣に議論し、運用しながら改善をつづけなければ、日本の介護サービスは機能不全を起こすだろう。

 

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更新日: 2016/12/28 -07:01 PM