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外国人介護人材に関する動向

今後ますます介護需要が増加するなか、外国人介護人材への期待が高まっている。 特に本年2015(平成27)年は、外国人介護人材をめぐり政府の方針が打ち出されることが予測されている。 このため、介護をめぐる政府の動向や、現時点の外国人介護人材の制度とその展望を表出化し論点を明示したい。

1.はじめに

 今後ますます介護需要が増加するなか、外国人介護人材への期待が高まっている。 特に本年2015(平成27)年は、外国人介護人材をめぐり政府の方針が打ち出されることが予測されている。 このため、介護をめぐる政府の動向や、現時点の外国人介護人材の制度とその展望を表出化し論点を明示したい。


2.介護をめぐる政府の動向

 はじめに、介護人材の試算。 厚生労働省、社会保障審議会福祉部会、福祉人材確保専門委員会の2015(平成27)年2月発表の「2025年に向けた介護人材の確保環の確立に向けて~」によると、団塊の世代がすべて75歳以上となる 2025(平成37)年 には、75歳以上の後期高齢者が2000万人を突破し、要介護高齢者の増大が見込まれる。
2025(平成37)年に必要となる介護人材の数は約248万人で、2013(平成25)年現在、介護人材の数は約171万人。現在の施策を継続した場合、2025(平成37)年に約30万人の介護人材が不足する見通しが出された。
次に、今後の打ち手。 2025(平成37)年に向け、医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される「地域包括ケアシステム」の構築を目指す政府は、 大量に不足する介護人材に対し、未就労の女性、若者、中高年、障害者、他業界からの転職に人材のすそ野を広げ(参入促進)、労働環境や処遇を改善して定着率を高め(労働環境・処遇の改善)、 専門性を明確化・高度化し、また機能分化による質の向上や人材の有効活用(資質の向上)といった方針で長期的な視点にたって解決にあたろうとしている。
財政面においては、2014(平成26)年、地域における医療及び介護の総合的な確保を推進するための関係法律の整備等に関する法律(医療介護総合確保推進法)の改正により、 2015年4月より特別養護老人ホームへの入所条件が要介護3以上に厳格化、2015年8月より年金収入280万円以上の高齢者の自己負担が現行の1割から2割に増加、介護報酬を減額し、 介護人材への報酬を月1万2000円程度上げられるよう加算金で上積み等の方針を固めた。 介護保険料の個人負担は微減となった。要介護高齢者の増大が想定され、今後もこのような方針が続くものと見込まれる。

3.介護人材における課題

 政府の介護人材獲得方針を裏返せば、介護職のイメージの悪さ、離職率の高さ、個人の資質の鈍化などの問題があり、 社会的地位が低いということを払拭して介護人材を増やしたいという姿勢が見て取れる。 介護労働安定センター「介護労働実態調査(2013年度)」によれば、離職率の問題よりも、 新規採用に課題があることがわかる。介護施設のうち、 職員の採用が困難であると回答した施設が68.3%にのぼる反面、離職率が高い(定着率が低い)と回答したのは17.5%であった。 また、採用が困難である背景には、低賃金、仕事がきつい、社会的地位が低いという理由が上位を占めている。 さらに、採用が困難である背景には間接的な要因も働いていると予測する。 労働人口が減少するなか、介護未経験者の採用対象となる未就労女性や高齢者、若者などは、相対的に労働条件の良い他の産業でも人材として期待されているためである。
以上のことから、2025(平成37)年に不足する約30万人の介護人材の獲得は、非常に困難であると考えられる。

4.外国人介護人材をめぐる制度1 EPA

 大量の介護人材が必用とされ、外国人介護人材の活用が現実味を帯び、期待が高まってきた。 以前から政府は外国人介護人材の可能性を探ってきている。現状唯一の外国人介護人材の制度がEPA(経済連携協定)である。 EPA(経済連携協定)とは、国や地域を限定して、関税等の貿易障壁を撤廃することにより、 モノ・ヒト・カネ・サービスの移動を促進させようとする協定。その枠組みの中で、 インドネシア2008(平成20)年、フィリピン2009(平成21)年、ベトナム2014(平成26)年より、 看護師・介護士候補者の人材移動を促進してきた。日本語学習と就労を継続し、国家資格である看護師、介護福祉士を取得すれば永続的に日本で働けるという制度。 介護施設での受入れの反応は、職員、利用者・ご家族いずれも75%以上が「良好」「概ね良好」とし、「あまり良くない」「悪い」と回答したのは職員で3.3%、 利用者・ご家族で1.4%と良い反応が得られている(平成24年度巡回訪問調査)。
しかしながら、EPAは多くの課題を残している。 公益社団法人国際厚生事業団平成27年度版EPAに基づく外国人看護師・介護福祉士受入れパンフレットによると、2008(平成20)年度~2013(平成25)年度までに介護福祉士候補として入国した人数は累計1128名、 介護福祉士に合格したのは累計242名と合格率が低い。また、合格した242名は永続的に日本で就労可能となるが、約2割の44名が帰国している。 多額の補助金を拠出している点も課題になる。介護福祉士候補者の受入れ施設に日本語学習や専門学習の費用、環境整備の費用として受入れ一人当たり23.5万円以内、研修担当者の活動に対する費用として一施設当たり8万円以内の税金も使用してきた(厚生労働省、平成26年度外国人介護福祉士候補者学習支援事業実施団体公募要領)。費用対効果が悪いといわれてきた所以である。 EPAで確認できたことは、日本の受入れ施設が外国人雇用に積極的ではなく、送出し国も大量に送り出せないため積極的でないという点。 また、国家資格の合格率が低く、せっかく合格して日本で永続的に就労できる権利を得ても、必ずしも長く働かないという点だ。 経済活動の連携強化を目的とした特例的な受入れという性格上、不足する介護人材の代替とはならない可能性が高く、今後受入れ需要が伸びても、日本で働くというインセンティブが働かない可能性が出てきている。

5.外国人介護人材をめぐる制度2

 EPA以外にも、政府は外国人介護人材の制度を検討してきている。昨年2014(平成26)年6月には、日本再興戦略(改定2014)を閣議決定し、外国人人材の活用、 介護分野においては、外国人技能実習制度の見直しによる対象職種への介護職の追加と介護福祉士の国家資格を取得した外国人の就労、を掲げた。 これを受けて、法務省および厚生労働省では、技能実習制度見直しに関する法務省・厚生労働省合同有識者懇談会と、 厚生労働省にて外国人介護人材受入れの在り方に関する検討会が相次いで発足。2015年1月、2月にそれぞれ報告書と中間まとめが発表された。
本年2015(平成27)年3月には外国人介護人材をめぐり、技能実習制度への介護職の追加と在留資格「介護」の新設が閣議決定され、今後の通常国会に提出される予定である。 早ければ2016(平成28)年度には介護技能実習生が誕生する見込みとなった。

6.在留資格「介護」

専門的・技術的分野に初めて介護を位置づけ、在留資格に介護を加えるかが検討される。 外国人介護人材受入れの在り方に関する検討会(中間まとめ)厚生労働省では、この対象者を「介護福祉士の国家資格取得を目的として養成施設に留学し、 介護福祉士資格を取得した者とすることが適当」としている。また、就労は日本人と同様にし、訪問系サービスは慎重に検討すべきだとしている。
国家資格介護福祉士を取得するためには、現在3つのルートが設定されている。1)実務経験ルート、2)福祉系高校ルート、3)養成施設ルート。1)は実務経験3年以上が必須のため、 就労資格のない留学生には適応できない。
2)は高校から留学して資格を取得するルートだが、在留資格を得るためには一般的に大卒以上が条件となるため現実的ではない。 制度としては3)の養成施設ルートが適当ではないだろうか。 高校卒業後、①介護福祉養成施設(2年以上)、②福祉系大学等・介護福祉養成施設(1年以上)、③社会福祉士養成施設等・介護福祉士養成施設(1年以上)、④保育士養成施設等・介護福祉士養成施設(1年以上)といったルートで取得できるが、外国人の場合は、①介護福祉養成施設、②福祉系大学等・介護福祉養成施設(1年以上)で資格取得していくことが主流となるのではなかろうか。 在留資格に介護が加われば、労働者として外国人を受け入れる初めての制度となることから、 後述する技能実習制度における低賃金労働力と技術移転といった本音と建て前論にさらされることなく、労働者として活用できるというメリットがある。反面、育成に時間がかかり、 留学費用が負担となり、すぐに現場で働くことができない。EPAの事例のように、日本で介護福祉士となるインセンティブが働かない可能性も存在する。

7.介護技能実習制度

 建設分野や農業分野に代表される外国人技能実習制度に、対人サービスとして初となる介護を加えるかが検討される。技能実習制度とは、公益財団法人国際研修協力機構によれば「最長3年の期間において、 技能実習生が雇用関係の下、日本の産業・職業上の技能等の修得・習熟をすることを内容とするもの」と定義している。国際協力・国際貢献のもと、実習生へ技能を移転し、経済発展を担う人材を育成することが目的となる。 高卒18歳以上で同種の経験を有する人材が単純労働ではない業務に従事することになる。 また、受入れ企業は非営利の監理団体と契約し、技能実習生を受け入れる(団体監理型の場合)。 最低賃金以上を保障し、保険や年金に加入、実習実施計画をもとに技能実習指導員や生活指導員の指導をうけながら労働する。 制度上の目的は、技能移転や国際貢献であるが、実態としては、日本が認めていない外国人単純労働者の受入れの代替枠組みとして、しばしば捉えられており、低賃金労働、長時間労働、人権侵害や、実習生の逃散などが社会問題となるケースも出ている。
こういった課題も踏まえ、外国人介護人材受入れの在り方に関する検討会(中間まとめ)厚生労働省では、介護技能実習制度におけるいくつかの条件を示している。 受入れできるのは設立から3年以上経過した企業、施設介護のみ従事でき、訪問介護はしない。 日本での実習期間は3年で、条件により5年間に延長。来日時に日本語能力検定試験N4程度が必要で、1年終了時点でN3程度必須。 受入れ機関では介護福祉士を指導員にし、給与は日本人と同等水準以上、夜勤業務は2年目以降から。 介護に従事する常勤職員のうち介護福祉士資格を所有する職員の10%程度までを上限に受入れ枠とする、などをあげている。

6.まとめ

 2025(平成37)年に約30万人の介護人材が不足するという予測のもと、外国人介護人材への期待が高まり、 政府はこれまでのEPAの枠組みに加え、在留資格「介護」や介護技能実習制度の検討を始めた。いよいよ外国人介護人材の本格的な運用が始まろうとしている。 EPAの事例や、建設や農業分野における技能実習制度の事例を踏まえて、外国人介護人材の可能性を検討し、適切な制度設計をすることが必要である。今後の政府の動向に注目していきたい。

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更新日: 2015/03/21 -05:42 PM