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コミュニティにおける高齢者等の生活について―日本 ―その1.住宅政策の概要と住宅の現状―

 平成17年10月1日現在、日本の人口は127,767,994人、人口密度は343人/1キロ平方メートルです。5歳階級別の人口構成についてみると、15歳未満の人口は全人口の13.71%、15から64歳は65.82%、65歳以上の人口は20.09%です。高齢者に注目してみると、65歳以上の人口は25,672,005人であり、日本の高齢化率は現在20.09%です。このように、15歳未満の人口が減少し、65歳以上の人口が増加するなど、日本は少子高齢化社会の中にあります。そこでここでは、日本のコミュニティにおける高齢者等の生活を知るために、まず初めに日本の住宅政策の概要と住宅の現状について見ることにしましょう。

1.はじめに

平成17年10月1日現在、日本の人口は127,767,994人、人口密度は343人/1キロ平方メートルです。5歳階級別の人口構成についてみると、15歳未満の人口は全人口の13.71%、15から64歳は65.82%、65歳以上の人口は20.09%です。高齢者に注目してみると、65歳以上の人口は25,672,005人であり、日本の高齢化率は現在20.09%です。このように、15歳未満の人口が減少し、65歳以上の人口が増加するなど、日本は少子高齢化社会の中にあります。そこでここでは、日本のコミュニティにおける高齢者等の生活を知るために、まず初めに日本の住宅政策の概要と住宅の現状について見ることにしましょう。

2.日本の住宅政策の概要

戦後の住宅政策は住宅建設計画法(Housing Construction Planning Act)(昭和41年)に則して住宅建設五箇年計画(Housing Construction Five-year Program)を策定し、各期の目標を定めて行われてきました。表1-2に示すように、第1期、第2期の目標は一世帯に一住宅、一人に一室という『住宅の量』を求めたものでした。
また、第3期になって『居住水準』という『住宅の質』を求める考えが導入されて、計画の目標は量から質の時代へと転換しました。具体的には、昭和51年度を初年度とする第3期住宅建設五箇年計画で『居住水準』が、昭和56年度からの第4期住宅建設五箇年計画で『住環境水準』が導入され、さらに平成3年度からの第6期五箇年計では『最低居住水準』、『住環境水準』の3つの基準が揃って示されました。最低・誘導居住水準は世帯人員に応じた住戸の規模を重視して住戸の質を確保するという考えに基づくものでありました。例えば、最低居住水準は「個人のプライバシー、家庭の団らん等に配慮して、自立した生活を営む上で最低限必要な水準を確保する」という目的があり、住環境水準は日照・通風・プライバシーの確保などが目的にあり、それは主に住戸回りの空間の質を対象としたものでした。このように戸数の確保から、広さ、そして隣近所を含めた地区における住み良さの確保へと、住宅政策の視野は広がりました。(表1-1参照)

表1-1最低居住水準
居住室等の構成及び規模については、次の条件を満たすものとする
  • 各居住室の構成及び規模は、個人のプライバシー、家庭の団らん等に配慮して、自立した生活を営む上で最低限必要な水準を確保する。
  • 専用の台所その他の家事スペース、便所、洗面所及び浴室を確保する
  • 世帯構成に対応した適切な収納スペースを確保する。
  • 共同住宅における共用施設について、中高層住宅にあっては、必要に応じてエレベーターを設置する。
  • 上記の条件を満たす住戸の規模は、標準的な世帯構成の場合、世帯人員に応じて次のとおりとする。
  • 注1)標準的な世帯構成とは、世帯人員3人以上の場合、夫婦と分離就寝すべき子供により構成される世帯をいう。
  • 注2)居住室面積には、寝室及び食事室兼台所のみを含む。
  • 注3)住戸専用面積には、寝室、食事室兼台所、便所、浴室、収納スペース等を含むが、バルコニーは含まない。
世帯人数 居住面積(内法) 住居専用面積(壁芯)
1人 7.5平方メートル(4.5畳) 18平方メートル
1人(中高齢単身) 15.0(9.0) 25
2人 17.5(10.5) 29
3人 25.0(15.0) 39
4人 32.5(19.5) 50
5人 37.5(22.5) 56
6人 45.0(27.0) 66

表1-2住宅建設五箇年計画における住宅建設の目標推移
期間 目標 設定水準
第1期 S.41-45 1966-1870 一世帯一住宅
第2期 S.46-50 1971-1975 一人一室
第3期 S.51-55 1976-1980 昭和60年を目途に……良好な水準の住宅を確保
  • 最低居住水準の設定
第4期 S.56-60 1981-1985 居住する地域の特性等に応じ、良好な住環境の下に安定した生活を営むに足りる住宅を確保
  • 住環境水準の設定
  • 誘導居住水準(【都市居住型】【一般型】)の設定
第5期 S61-H.2 1986-1990 良質な住宅ストック及び良好な住環境の形成を図る
第6期 H.3-7 1991-1995 良質な住宅ストック及び良好な住環境の形成、大都市地域における住宅問題の解決、高齢化社会への対応、地域活性化等に資する良好な居住環境の形成
第7期 H.8-12 1996-2000 都市居住の推進と住環境の整備、いきいきとした長寿社会を実現するための環境整備、地域活性化に資する住宅・住環境の整備
第8期 H.13-17 2001-2006 良質な住宅ストックの整備、いきいきとした少子・高齢社会を支える居住環境の整備、都市居住の推進と地域活性化に資する住宅・住環境の整備、消費者がアクセスしやすい住宅市場の環境整備の推進

3.日本の住宅の現状

住宅の現状を5年に1度行われる『住宅・土地統計調査(Housing and Land Survey)』(総務省統計局)の調査結果注1)(平成20年)に基づいて見ると、次のことが判ります。

  1. 日本の住宅の内、人が住んでいる住宅の総数は49598300戸です。
  2. その内、住宅の種類は専用住宅が97.3%、店舗併用住宅が2.8%であり、住宅のほとんどが専用住宅です。(図1-2参照)
  3. 住宅の建て方(写真1-1から1-3参照)は、一戸建が55.3%、共同住宅が41.7%とこの2種類で大半を占めています。(図1-3参照)
  4. 住宅の所有関係は、持ち家が63.1%、民営借家が27.6%とこの2種類で大半を占めており、約3割が借家です。(図1-4参照)。
  5. 住宅の建築時期は、19781年以降建設された住宅が61%と建設後30年以内の住宅が半数を超え、比較的新しい住宅が多いのですが、1980年以前に建設され、建設後40年経過した古い住宅も32.3%を占めます。(図1-5参照)
  6. 住宅の建設時期を住宅の所有関係別にみると、公営住宅、都市再生機構・公社の借家に1960年代 、1970年代に建設された住宅が多く、また、住宅の建設時期を住宅の建て方別にみると、長屋建に同様の時期の住宅が多い。(図1-6参照) また、これら1960年代、1970年代の古い住宅についてその構造をみると、長屋建は木造や防火木造注2)が多く、公営住宅、都市再生機構・公社の借家は非木造が多い。(図1-7参照)
  7. 居住水準についてみると、最低居住面積水準未満の世帯は3313500世帯、全世帯数の6.7%です。 最低居住面積水準未満の世帯を住宅の建て方別に見ると、長屋建と共同住宅(に、住宅の所有関係別に見ると、民営借家 (木造及び非木造)に多くみられます。(図1-8参照)

4.日本の住宅政策の今後について

住宅建設計画法に基づいて行われた第8期住宅建設五箇年計画の期間中の平成18年6月8日に住生活基本法(Basic Act for Housing)が交付され、それに伴い、これまでの住宅建設法は廃止されました。量から質へと転換した日本の住宅政策は、これからどのような目標でどのような方向に向かうのか、今後を見守ることが必要になります。これまでの住宅政策の推移から現在の住宅事情を検討した結果、日本の住宅政策において今後の問題や課題は次の通りです。

1.中古住宅の増大と公的借家の建て替え問題

1960年代、1970年代に建設され、設備が古くなった住宅は今後住宅の修復、あるいは、建て替えが必要になるでしょう。前述した公営住宅や都市再生機構・公社の借家は築40年以上を経過した住宅が多く、早晩、修復や建て替えが必要になりますが、そこには多くの借家人が住んでいるため、建て替えには困難が予想されます。賃貸住宅の建て替えで最大の問題は建て替え後の家賃が建て替え前の家賃に比べて高くなり、住み慣れた住宅やコミュニティを離れなければならない居住者が出ること、この点を最大の理由に居住者が建て替えに反対すること、また、それが原因で建て替えが長期化することです。そこで、賃貸住宅の建て替えにおいては、住み慣れた住宅やコミュニティから追い出されない建て替えの方法や手法を工夫し、また、適切な社会的支援を求めて居住者と住宅の所有者が協議を重ねることが大切になります。さて、日本では1960年代から1970年代 1960sから1970 、行政の計画やコミュニティ施設の建設計画などに住民が参加する『住民参加』が各地で行われた、また、1970年代からは都心部の木造住宅密集地区の改善事業において、行政と地域の住民が対等の立場で協力してつくるまちづくりを経験し、その過程でまちづくりに必要な仕組みと技術が蓄積され、今日のまちづくりの基盤が築かれました。また、それらの過程でまちづくりに関わる多くの人や組織が形成され、東京のある区では、『居住者組織やコミュニティが自ら計画案を策定し、首長に提案することができ、また、首長はそれを尊重する』という条例―住民主体の計画の仕組みーが生まれました。今後の建て替えにおいては日本の様々な地域で行われたまちづくりの経験と市区町村で育まれたまちづくりの仕組みやノウハウを活かして、従来型の『住民参加』だけでなく、コミュニティや居住者が合意形成や決定に参加する『建て替えシステム』を創り、居住者が慣れ親しんだコミュニティに継続して住み続けられるようにすることが課題です。

2.自力で居住水準の向上を図れない居住者に対する社会的支援

住生活基本法は以前あった住宅建設計画法における住宅建設五箇年計画の目標が概ね達成されたという認識に基づいて発足しています。居住水準についてみると、最低居住面積水準未満の世帯は全世帯数の6.7%であり、比率だけをみると決して「多い」とは言えませんがその数は3313500世帯にのぼります。住宅建設五箇年計画の初期にはこれ以上の世帯が最低居住面積水準未満であったので、これでも居住水準が設定された時期に比べると改善されたといえます。しかし、計画の目標が『良質な住宅ストックの形成』に移った第5期住宅建設五箇年計画以降、『最低居住面積水準未満の世帯を解消する』という政策と300万世帯を超える最低居住面積水準未満の世帯は置き去りにされたまま今日に至っています。自力で生活の向上が図れない層を社会的に支援することが政策の役割であると考えると、これらの層を切り捨てず、置き去りにしない政策が今後求められます。

3.アジアの学生たちに向けて

1.実態を把握するために必要な統計調査と結果の公表

今回のレポートで使用した資料は『人が居住している住宅やそれ以外の建物』を対象に行った統計調査の結果であり、ネット上に公表された統計一覧の一部です。実態の把握がきちんと行われ、結果のデータが市民に公開されることで市民はより正確な実態を知ることができ、また、いろいろなところに利用することができます。それゆえ、コミュニティの実態を把握するための調査と結果の公表はコミュニティと居住者にとって大事です。

2.居住水準の設定は歴史・文化・宗教、コミュニティにおける生活スタイルに配慮

日本では居住水準を定めて住宅の質の改善に取り組みました。これは、『世帯人員に応じた住戸の規模を重視して住戸の質を確保する。』という考え方に基づいています。例えば、最低居住水準は「個人のプライバシー、家庭の団らん等に配慮して、自立した生活を営む上で最低限必要な水準を確保する」ということが目的にあり、また、『標準的な世帯構成とは、世帯人員3人以上の場合、夫婦と分離就寝すべき子供 により構成される世帯』と定めています。しかし、居住水準の考え方、標準的な世帯構成の実態や分離就寝の習慣などは、それぞれの国の歴史・文化・宗教、あるいは、民族や風習などによって異なるでしょう。例えば、『夫婦と分離就寝すべき子供』や『異性の兄弟間で分離就寝すべき年齢』などの考え方はキリスト教や儒教 の倫理観などの影響かもしれません。それゆえ、居住水準を設定する時は、その国の歴史・文化・宗教・民族性、あるいは、コミュニティにある住宅の構造や建て方、居住者が慣れ親しんできた住まい方 や生活のスタイルなどに十分配慮してそれぞれの国やコミュニティで独自に作ることが大切です。

  • 注1)住宅の図は平成20年住宅・土地統計調査(総務省統計局)、調査結果の統計表より作成
  • 注2)柱・はりなどの骨組みが木造で,屋根や外壁など延焼のおそれのある部分がモルタル,サイディングボード,トタンなどの防火性能を有する材料でできているもの
  • 注3)出典『人とまちを温かくつなぐ長屋の暮らし』:HOME >> 住むまち大阪スタイル、2002年春号、大阪市立住まい情報センター
関西学院大学 アジア文化研究センター(UCRCA)客員研究員  若杉幸子

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更新日: 2011/05/29 -11:24 PM