関西学院大学総合政策学部上野研究室 2007 年度研究演習 (School of Policy Studies, Kwansei Gakuin University)
上野研究室は2006 年に初めてモンゴル研修旅行を行いました。この報告書は2年目の報告です。
上野研究室は2006 年に初めてモンゴル研修旅行を行い、その上で2007 年、第2 回の研 修旅行を実施しました。この報告書は2 年目の研修をまとめたものです。今回は3回生を 中心として4回生、大学院研究科生を含め、最大時には17名が参加したことになります。
この報告書のまとめにあたって、今一度、なぜ海外研修を行うのか、なぜそれが途上国 で、なぜモンゴルなのか、そこで何をしたいのか、するのか、今一度、私の考えを伝えて おきたいと思います。これは簡単にいえば、私、上野個人の、長い人生の経験と、志と、 時と、人とのつながりとの、めぐり合わせの結果です。(これについて詳しくは「再びモン ゴルへ」 http://www.org/views/06fall/ueno_mongolia06.htmlを読んで下さい。)
私は大学卒業後四十年、横道や回り道をしつつ、そのときそのときどう生きるか生きた いか、何が自分に出来るのか、何を自分に課すのかを考えてきました。関学に来た2005 年 以前の20 年ほどは、主に米国ワシントンのシンクタンクで「政策研究」に従事したのです が、厳しい米国での研究生活を続けられたのは、そのなかで、「市民社会」「デモクラシー」 「政策」といった、人生をかけて希求する価値のある課題と出遭えたからです。(もちろん 人生に希求すべきはこうしたものだけではありません、自由も愛も幸福もあります。)
その過程で、私が得た確信は、日本の青年、学生は、出来るならば大学卒業までに、一 度でも外の社会を見、学んでくる必要があるということです。日本以外の国、外の世界を 知ることによって、よさも悪さも、強さも弱さも含めて、私たち自身、日本自身を知るこ とができます。そして私たちにとって価値あるものと、他の国や人々にとって価値あるも のは違うということ、異なる価値があり、そして異なっていいこと、違いの中から違いを 超えて互いに得るものがあり、新たなよりよき価値の形成ができるということが、外に出 ることによってわかるようになるからです。21 世紀を生き、造るあなたたちは、日本の社 会の発展と変革に関る意思を持ち、世界に開かれた眼と心を持たなければなりません。そ うでなければ、日本自体も、あなたたちひとりひとりも生き抜いていかれなくなります。
見ること、学ぶこと、考えること、経験することは、限りなく、何から始め、どこから 始めるか、若いあなたたちには無限の可能性と選択の幅があります。ひとつのアプローチ は、途上国を知ること、[知覚]し、実感し、そこから日本を考える、見直すこと、そして 世界へ、地球へ、地球市民として考え、何が出来るか、何がなされねばならないのかを考 えることです。私が久しぶりに日本に戻り、関学に来て、優れた潜在力を持つ学生の教育 に当たることになって、これは途上国研修をゼミで取り組もうと思った理由はここにあり ます。
なぜそれではモンゴルか、なのですが、実は1996 年から1999 年までの丸4 年間、私の 夫は世界銀行を離れ、JICA 派遣のモンゴル国財務省顧問としてウランバートルに赴任しま した。その間私は娘とワシントンで働き暮らしていたので、毎年娘を連れてワシントンか らウランバートルへ地球半周の旅を繰り返しました。それがモンゴルを知り、そして素晴 らしい友人を得るきっかけとなったのです。人生は面白いもので、2006 年にその絆、「人と 時と志(思い)」が編みなおされて繋がって、私はゼミのみんなをモンゴルに連れて行くこ ととしたのです。
モンゴル経済は中央アジア移行国のなかでは優等生でマクロ経済的には成功モデルとい われます。この成功には日本の支援も含めた世界の支援がよく機能した成果と考えていい でしょう。しかしその一方で、資源に頼る国特有の問題を引き起こしてきました。なかで も、社会的問題、格差と都市問題、公害と住宅問題、環境問題はますます深刻さを増して います。またさらに政治的にも民主化のプロセスのひずみが見られます。
ゼミの研修旅行が、こうしたモンゴルにとって、どのような意味を持つか、プラスにな るのか、無益かは、まだ初めて間もなく、ミクロのことでもあり、はかりかねることです。 しかし少なくとも私たちはモンゴルの現在を知り、その抱える問題を知ることから、振り 返って日本のこと、そして私たちの出来ることを考えてみるという、貴重な機会を得るこ とが出来ます。
1 年目でおおまかなモンゴルの状況ことにウランバートルの状況を把握しました。そして ことに都市政策関連ゼミとして、途上国の都市住宅問題が喫緊の取り組むべき問題である ことを認識したのが2006 年度の成果でした。
この問題解決のためにミクロで有効なことが何かを探ってみようと思ったのが2007年の 研修活動と調査の焦点でした。ここにまとめられたレポートはそれぞれが十分な考察のも とになされ、全体として系統だった調査報告になっているとはいえません。まだ統一のな い模索状況の調査報告です。それは、私が格好良いことを言いながら、実際には時間も力 量も不足していて、指導もままならなかったことの明らかな結果でもあります。それでも みんなの努力が結集した研修の成果です。よく読み、考え、批判し、去年から今年、そし て次のステップへ、そして関学の掲げる地球市民としての歩みの確かな踏み台としても、 有効に役立ててください。
この研修に様々に協力いただいた、講義講師の方々、調査資料の提供を助けていただい た方々、多くのモンゴル人、モンゴル在住日本人の方々にこの場を使って心から感謝する 次第です。
研究演習I担当教授 上野真城子
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更新日: 2010/11/17 -07:41 PM