上野研究室は2006年に初めてモンゴル研修旅行を行い、その後2007、2008年、2009年2010年、2011年、6年にわたり研修を重ねてきました。本年2012年は第7回となりますが、私の定年退職の年にあたり、通常の3回生を受け入れることができませんので、外部関係者を含めて8月30日より9月9日の10日間、実施しました。ここ7年を振り返りつつ、モンゴルの急激な発展と成長に、驚嘆する旅でした。
繰り返しになりますが、私の関学での8年間の、ゼミ生への基本的な教育の信念は、生涯学び考え、行動する人間、関学のモットーである「地球市民」になってほしいことにありました。
私は大学卒業後四十余年、横道や回り道をしつつ、そのときそのときどう生きるか生きたいか、何が自分に出来るのか、何を自分に課すのか、学び続け、考え続けてきました。
関学に来た2005年以前の20年ほどは、主に米国ワシントンのシンクタンクで「政策研究」に従事しました。厳しい米国での研究生活のなかで、私は「市民社会」「デモクラシー」「政策」といった、人生をかけて希求する価値のある課題と出遭いました。今、私がこの年齢をもって、大学教育の場で出来ること、果たせる責任の一つは、若い学生諸君が、人生に追求すべき、生涯の学びの課題を発見するのを助ける、そうした機会を揃えることでした。
その機会として、出来るならば学生は大学卒業までに、一度でも外の社会を見、学んでくることが大事だというのが、私の確信でした。日本以外の国、外の世界を知ることによって、よさも悪さも、強さも弱さも含めて、私たち自身と日本自身を知ることができます。そして私たちにとって価値あるものと、他の国や人々にとって価値あるものは違うということ、異なる価値があり、そして異なっていいこと、違いの中から違いを超えて互いに得るものがあり、国境を超えて、新たなよりよき価値の形成ができるということを学んでほしいということでした。
モンゴル研修はこの目的に適したものと考えられました。
1年目でおおまかなモンゴルの状況、ウランバートルの状況を把握しました。そしてことに都市政策関連ゼミとして、途上国の都市住宅問題が喫緊の取り組むべき問題であることを認識したのが2006年度の成果でした。
この問題解決のためにミクロで有効なことが何かを探ってみようと思ったのが2007年の研修活動と調査の焦点でした。援助に関わるさまざまな機関と責任者の方々からの講義を受けました。都市問題と住宅問題の基本を都市居住の原点、:コミュニティーに置くことが非常に重要であることが、開発理論からでなく、踏査を通じて見えてきました。
2008年度には、日本のJICAによる都市マスタープラン研究を知り、その中でことにモンゴル科学技術大学のPurev-Erdene先生のゲル地区改良の提案と活動に出会い、これへの貢献を考えた調査を行いました。この関係を土台に2009年度の調査は、コミュニティーの現状と問題を、子供たち、小中高学生のGISを使った生活圏調査から探ってみることとしました。これは今後のすべての援助及び社会改革のカギとなる、コミュニティー・ビルディングということ、すなわちコミュニティー形成と内発的開発、住民による、住民のための、住民の計画と参加、プロセス、過程をつくりだしていくことが最も大事な行為であるという理念に立ち、私たちが出来る、働きかけの一つとしての調査でした。
2010年3月には限られた関係者のみでしたが、各年夏の中間となる冬季調査を行いました。零下25度Cのウランバーを訪ね、冬季の都市問題を実感することになましたが、このときに9月調査のためのカウンターパートを作り、加えて、ゲルを購入しました!
この経過を経て行われたのが2010年の研修旅行です。特にこの調査活動にはコミュニティー開発青少年リーダーシップ・プログラム(Community Building Youth Leadership Program)を、Zorig Foundationの協働のもとに58番高校でクラブ活動としてスタートさせました。このプログラムから3人の高校生に大学1年目の奨学金を渡すことになりました。2012年にウランバートルを訪れた際に、58番高校を訪れましたが、校長の移動があったことで、我々の関与の継承が困難であることを認識しました。しかし、この58番高校は、本年、全国700ある学校のなかで、トップ校として選ばれたとのことで、校長は私たちの交流に感謝の意を表してくれました。
私の関学での教育の終了に鑑みて、今後のモンゴルとの交流は研究室を離れて、しかしUCRCAを通じて展開したいと考えます。
2006年以降、私たち、関西学院上野研究室とUCRCAは毎年一回以上、モンゴルへの研修旅行を行ってきました。2012年は私の関学退職のため、たぶん最後の研修旅行となります。合計7回の旅は、私たちの研究室にとって、参加したものにとって、本当に豊かな経験をもたらしてくれました。そして同時に、私個人にとっては1996年来、16年ほどのモンゴルとの交流の中で触れた変化の大きさに驚愕するものがあります。この発展を見続けることができたことを何より喜びに思います。
1996年当時モンゴルは世界の最貧国でした。ウランバートルは物がなく、レストランも限られ、食糧品、野菜、肉も限られ、政府官公庁に接したかなりの住宅とはいえ、暗く汚い階段と、身の安全にかなりの気遣いが必要なくらしは、ワシントンで生活していた私と娘が、モンゴルの夫のところへ移る勇気を与えませんでした。
2012年のいくつかの数値、人口317万(2011)世界135位、中位年齢26.5歳、人口増加率1.47%(世界81位)、都市人口は全人口の62%、そのうちウランバートル市人口122万人、平均余命68.63年(世界154位)男66.16年女71.23年、識字率97.4%, 若年層(15?24歳)失業率 9.9%(2010)貧困線以下人口39.2%(2010) 等は、変化したもの、変化しないもの、いろいろですが、その経済成長は当時とまったく違うものとなりました。
たとえばGDP 実質成長率 17.3%(2011)世界第2位、GDP(per capita) $4,800世界155位、産業生産性兆率(Industrial Production Growth Rate)37.3%(2010)世界1位です。
モンゴルにとって何より大きな変化は、自由主義経済への移行後に明らかになったモンゴルの鉱山資源の「発見」でした。
ウランバートルの景観を変える、高級ヨーロッパの専門店と高級レストランをつめこんだ高層ビルと、トゥール川の河岸にひろがる高級住宅群、そして、市周辺の丘陵地をアメーバのように埋め尽くしたゲル地区のスプロール。
都心部の車の喧騒と渋滞、工事中のビルと穴だらけの道路と雑踏、それはエネルギーに満ちたものでもあり、また埃と車の排気ガス、冬場のスモッグは人々の健康を蝕んでいます。そして、所得の格差の膨大な拡大です。
モンゴルは今、まれにみる国造りの機会に恵まれています。環境の保全と、経済成長の稀有な機会と、国の骨格づくり、デモクラシーへの歩みという、課題と挑戦があるのです。
いずれにしても、一つが唯一絶対のゴールを持っているわけでなく、すべてが、時間、時代に遅れることなく、バランスを見極めつつ、課題を解決しつつ、動いていかなければならないのです。それは政治、経済、社会が、相互にダイナミックにかかわりながら、人々の暮らしの痛みを最小限にしながら、国家を、デモクラシーの強靭さを構築しつつ、造り上げるという、大きな挑戦です。
Ms. Kimiko Shimasue 島末 喜美子 | Director of Nursing Service, Uegahara Hospital 医療法人財団 樹徳会 上ヶ原病院 看護部長 |
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Ms. Yoshie Rozari ロザリ 芳枝 | Owner and Manager, Traft Bridge Inn, Washington D.C. Traft Bridge ホテル、ワシントンD.C.、経営者者 |
Ms. Makiko Ueno 上野 真城子 | Professor, Kwansei Gakuin University 関西学院大学 教授 |
Mr. Shinya Kawamoto 川本 真也 | Urban Renaissance Agency, Japan (quaisi-government urban planning agency) UR都市機構 独立行政法人都市再生機構 |
Mr. Yuta Shibatsuji 芝辻 裕太 | President and Director, Shibaservice Inc. シバサービス法人 管理長 |
Mr. Shotaro Sosogi 淋 翔太郎 | Student, senior, Kwansei Gakuin University 関西学院大学4回生 |
Ms. Rika Wataya 綿谷 梨花 | Student, senior, Kwansei Gakuin University 関西学院大学4回生 |
Mr. Badruun Gardi | Executive Director, Zorig Foundation ゾーリック財団 最高責任者 |
関西学院大学 総合政策学部、 大学院総合政策学部政策研究科教授
日本女子大学卒、 東京大学大学院工学系研究科修了、工学博士、一級建築士
1986-2003年アーバン・インスティテュート( The Urban Institute, Washington, D.C.) 研究員、 大阪大学大学院国際公共政策研究科教授、大阪大学工学部特任教授を経て現職。住宅都市政策論、 シンクタンク論、デモクラシーとノンプロフィット・セクター、政策分析評価、コミュニティー開発・市民参加、シチズンシップ。
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更新日: 2012/10/01 -01:43 PM