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NPOシンクタンクとCBO Democracy&CivilSociety研究

公正な政策形成システムの構築について ―それに先立つNPOによる独立したシンクタンクの設立等について

「人民が主権を握る」という意味の『民主主義国家』でさえ、かつての中国やソビエトの共産主義や社会主義の大国がそうであったように、「主権者が交替しただけでは何も変わらない。」ということを今日の私達は理解することができるので、『代表制民主主義と権力』という点に私達は今目を向ける必要があるだろうと考える。言い換えると、主権者が天皇から国民に代わり、A党からB党に代わり、首相がα氏からβ氏に代わるなど決定権者の首がいずれに代わろうとも、「同様の政策形成システムを用いる限り、つまり、権力行使の方法を代えない限り現状の問題・課題は変わらない。」こと、「代表制民主主義社会においては、権力行使の方法が『代表すべき者を代表する時』にのみ民主主義社会が実現に向かう可能性がある。」こと、それ故、政策形成においては、「国民を代表する適切な『権力行使の方法』が求められる。」こと、「問題は『代表すべき者を代表する』政策の作成や選択・決定、合意形成の方法にある。」ことを理解する必要があると考える。

1. 既存の調査研究方法について考える

1 問題提起型研究の意義と政策提言型研究の限界について

私はこれまで地域の住宅や住環境の実態を調査し、その結果から実態の問題や課題を明らかにする類の研究(以下、『問題提起型研究』と略称)を行い、また、そこから一歩進めて政策要求や政策提言等をまとめる類の研究(以下、『政策提言型研究』と略称)を行なってきたが、最近、「この種の研究を永年行なっても、問題は相変わらず繰り返し発生し、また、現況の問題を作り出す制度や政策等が見直されて問題が改善されることがないのは何故であろうか。」と考える。

この考えはまた、原爆投下や東京大空襲の被災の映像を毎年その日が近づくと「あれでもか、これでもか。」と流す昨今の風潮に対して私が最近考えることに似ているのだが、その考えの1つは『問題提起型研究』に対する問いであり、「『これが問題だ、これが課題である。』と言い続けるこの種の研究の意義はどこにあるのか。他にもっとやるべきことがあるのではないか。」ということである。
言い換えると、「これらの研究が最新の実態調査を可能にし、最新の実態を明らかにする最新の技術を次世代に引き継ぎ、また、私達が生きた社会や政治等を記録し続け、歴史の真実を次世代に継承するという意味の『教育的意義』はあるに違いないが、私達戦後世代は『問題だ、問題だ。』と何時までも言い続けるこれら『問題提起型研究』の『教育的意義』のみに終始してよいのだろうか、更に行なうべきことがあるのではないか。」、「問題を生む原因を明らかにすることは勿論、例え研究分野の者にあっても問題や提言等が取り上げられて政策に反映されるまでの過程やそのしくみについて論及する必要があるだろう。」と考えるのである。

その考えの2つ目は『政策提言型研究』に対する問いであり、「公的政策が必要だ、必要だ。」と言い続ける『政策提言型研究』については、一方で「研究者達の提言が政策に取り入れられない原因は彼らが権力を持たないからである。」との考えから自らが一定の権限を得て政策提言の場で発言する研究者達がおり、また、他方で、「必要な政策が実現しない原因は現政権の政策が悪いからであり、政権を変えれば変わる。」との考えから国政選挙に勝利して権限を持つことに期待する研究者達がおり、それらは現在実践されている。しかし、権限を得た研究者達の発言は「貴重な御意見有難うございます。」と一蹴され、彼らが提示した実態や問題や提言等が議論の俎上に取り上げられないことは十分ありうるので、これらのことを考えると、「その方法や方向で今の政策が変えられるか。」ということである。

言い換えると、「原因は研究者達が権力を持たないからではなく、現況の政策形成が彼らの提示する科学的・客観的根拠や現況の問題・課題等に基づいて公正に行なわれないからである。」ということ、「原因は民主主義の政策形成における権力や権力行使の方法の問題、政策の作成や選択・決定、合意形成等のしくみにある。」ということ、つまり、「現政権が変わっただけでは変わらないことは明らかであるから、それらに考えが及ばず、地域住民の声や研究者達の政策提言等が反映される―研究分野を超えたその先にある―政策形成のしくみに論及することができなければ、そのこと自体がこの種の研究の限界である。」、それ故、「それで今の政策が変えられるか。」と考えるのである。

2 権力行使の方法に目を向ける必要がある

「人民が主権を握る」という意味の『民主主義国家』でさえ、かつての中国やソビエトの共産主義や社会主義の大国がそうであったように、「主権者が交替しただけでは何も変わらない。」ということを今日の私達は理解することができるので、『代表制民主主義と権力』という点に私達は今目を向ける必要があるだろうと考える。 言い換えると、主権者が天皇から国民に代わり、A党からB党に代わり、首相がα氏からβ氏に代わるなど決定権者の首がいずれに代わろうとも、「同様の政策形成システムを用いる限り、つまり、権力行使の方法を代えない限り現状の問題・課題は変わらない。」こと、「代表制民主主義社会においては、権力行使の方法が『代表すべき者を代表する時』にのみ民主主義社会が実現に向かう可能性がある。」こと、それ故、政策形成においては、「国民を代表する適切な『権力行使の方法』が求められる。」こと、「問題は『代表すべき者を代表する』政策の作成や選択・決定、合意形成の方法にある。」ことを理解する必要があると考える。 そして、研究分野においても民主主義社会における権力行使の方法、つまり、『政策形成システム』そのものに目を向け、研究を行う者が各分野の具体的な政策形成プロセスに沿ってそれに必要な政策形成システムを提示することが必要と考える。

2. 『公正な政策形成システムを構築すること』の必要性について

私が専門としてきた住宅・住環境の分野において政策形成のために現在行なわれている『関連法や事業・計画の〈案〉の作成』、『〈案〉の検討と選択・決定』、『関連法の施行や事業・計画の実施』、『実施後の評価』、『情報提供』のプロセスを例に、『公正な政策形成システムを構築することが必要である。』理由を説明しよう。

1 官僚と委託関係にある機関が作成する(案)はその公正が保障され難い

国会の第一党がA党からB党に代わり、首相がα氏からβ氏に代わるなど、決定権者の首がいずれに代わろうとも、「日本の官僚は優秀であるから。」という認識に基づいて官僚とコンサルタントやシンクタンクが委託関係で(案)を作成する現況の政策形成システムは独立性に欠ける。 それ故、『関連法や事業・計画(案)の作成』における権力行使については、作成組織の選択・決定などに関して公正を保障する適切な方法を提示することが必要と考える。

2 首相や官僚等が諮問・委託した組織による政策検討はその公正が保障され難い

一党から選出される首相、官僚、自治体の長などが諮問・委託する各種『委員会』などから出された意見を尊重する現況のしくみは、これら諮問や委託先から委員の独立性を保てる保障がないため、その場で忌憚のない自由な意見交換が行なわれ、また、出された委員の意見が尊重されるなどの保障はない。 それ故、『〈案〉の検討と選択・決定』における権力行使については、委員会の設定方法やその構成などに関して公正を保障する適切な方法を提示することが必要と考える。

3 代表制民主主義社会においては権力行使の方法について監視することが必要

政治主導、官僚主導については、それらとの『信頼性』やそれらへの『権力集中』、それらによる『大きな政府』等を懸念する動向があるが、日本は民主主義社会であり、国民主導であることは明らかであるから、政治主導、官僚主導の問題は唯一『権力』との関係、特に、『国民主導』と『権利行使』の問題として考える必要がある。 それ故、例え民主主義社会においても代表制を採用する社会においては、『権力の行使』について、国民は常に敏感になること、そして、常にそれを監視するための適切な方法を設けることが必要と考える。

4 分権化以降の自治体についても国と同様

『権力の行使の方法』については、「権力を必要最小限にする。政府は小さければ小さいほど良い。」という考えに基づく『地方分権』があり、我国でも最近実現した。
しかし、分権化以降の自治体においても、自治体の担当者とコンサルタントやシンクタンクなどが入札によって委託関係を結び、『事業・計画〈案〉の検討と選択・決定』や『事業・計画(案)の作成』を行なうなど権力行使の方法が既存の国の方法と同様の場合は、例え権限が分権化されても『権力行使の関係』が国民と国との関係から地域住民と自治体との関係に入れ替わったにすぎず、政策形成システムが「代表すべき者を真に代表しない。」という点では分権化以前の自治体と変わりない。

また同様に、『広域行政体をつくり、自立のための権限を与える』ことを意図して、現行の都道府県を廃止して『道州制』が提言されるが、この場合も分権化を分権化する区域の面積や人口の多少の問題としてだけ捉えることは適切ではない。
更に、「権限だけ委譲されても財源も移譲されて地方が自由にできなければ意味がない。」と言われる地方分権の意義についても、「財源と権限が委譲されればそれでよし。』と考えることは適切ではない。
その理由は、「代表制民主主義における権限の縮小化や権限委譲は代表すべき者を適切に代表する権力行使の方法と結びついた時に意義がある。」、つまり、国民であれ、分権化以降の地方住民であれ、彼らにとって権力の行使は、「民主権力を代表できる方法として機能した時のみ意義がある。」と考えることが適切であるからである。
それ故、分権化以降の自治体における政策形成についても国と同様、『公正な政策形成システムを構築すること』を今後の課題にすることが必要と考える。

5 「権力を持つと誰もが悪いことをする。」、それ故、公正な政策形成システムが必要

以上、政策形成システムについてのまとめを、私の友人がある会合で述べた言葉(注2)を引用して編集すると、次のように言うことができよう。

「権力を持つと誰もが悪いことをする。」、だから税金を使って作られる政策は政党が作るのではなく、『ノンプロフィットの独立した機関』が行うべきである。政策は市民に全て『情報公開』されるべきである。そして、政策の実施はノンプロフィットの独立した機関によって『評価』されるべきである。 また、「権力を持つと誰もが悪いことをする。」、だから市民が常に『監視』することが大事である。それ故、公正な政策形成システムを構築することが必要である。

3. 公正な政策形成システムについて

1 独立した非営利の機関による法や事業・計画(案)の作成

まず、官僚や自治体の首長等から独立した非営利の機関により法や事業・計画(案)を作成する。
その理由は、官僚や自治体の首長等と入札等でコンサルタントやシンクタンクが委託関係で(案)を作成する現況の政策形成システムは独立性に欠け、以下の問題が生じるからである。

コンサルタントやシンクタンクが国民や事業制度等の利用者の利用実態等から複数の問題・課題を提示して、それらに基づく複数の(案)を作成して検討委員会に提示するために用意した場合、それらがそのまま検討委員会に提示されて検討されるという保障はない。 例えば、国の場合、法を創設、あるいは、改正する作業は諸官庁の利害と無縁ではなく、官僚の意見は検討委員会に先立ち示され尊重される慣習があり、また、実態調査の結果報告や法(案)を検討委員会に提示するプロセスはそれらと無縁ではないため、その公正が保障され難い。 また、自治体における事業・計画(案)の作成や事業・計画(案)を検討委員会に提示するプロセスにおいても、委託先のコンサルタントやシンクタンクと自治体の事務局の担当者との関係は上記の国のそれと概ね変わりない。

2 独立した非営利の機関による法や事業・計画(案)の検討

次に、官僚や自治体の首長等から独立した非営利の機関により法や事業・計画(案)を検討する。
その理由は、官僚や自治体の首長等から委託された検討委員会が委託関係で(案)を検討し、複数(案)の中から1つの(案)を選択・決定する現況の政策形成システムは独立性に欠け、以下の問題が生じるからである。

○官僚や自治体の首長等と相談しながら作成した複数(案)については、それが検討委員会で忌憚のない自由な意見交換を経て検討されて、客観的・科学的に適切な1つの(案)が選択・決定されるという保障はない。 また、そのことは、複数(案)の検討や複数(案)から適切な1つの(案)を選択・決定する過程で委託関係にある委員が委員長や委託関係から自由であるという保障がないことと無関係ではない。

3 国民や事業制度の利用者、あるいは、地域住民による監視

次に、法の施行や事業・計画の実施中は、国民や事業制度の利用者、あるいは、地域住民により監視する。その理由は以下の通りである。

  • 法の施行や事業・計画の実施における国民や利用者からの問題・課題、利用実態等を明らかして、次の法や事業・計画の改正や見直しの時の情報として役立てるために実施について『監視』することが必要である。
  • 事業制度の実施中、運用基準や運用規則・細則等からもたらされる不都合や不具合によって必要な事業が必要な利用者に適切に届かないという経験をし、また、それらの実態を理解できるのは国民や利用者とその家族であり、これらの実態や問題の全体像を知りうるのは地域住民等であることから、これらの人々が法の施行や事業・計画の実施中監視することが最も適切、かつ、公正である。

4 独立した非営利の機関による評価

次に、法や事業・計画の実施後は、法の作成主体や事業・計画の実施主体から独立した非営利の機関が評価する。その理由は以下の通りである。

  • 法の施行や事業・計画の実施後、実施の実態を調査し、適切に実施されているか否かについて評価することは、税金が政策を通じて適切に使われているか否かについて評価することに等しい。それ故、『評価』が必要である。
  • 『評価』に必要な評価基準を作成するための機関や評価機関自体を、法を作成、または、事業・計画を実施した機関自らが委託する、あるいは、評価する民間人や市民等を公募した際、その選択や決定に係わることは著しく公正を欠く。それ故、『評価』は独立した非営利の機関が行なうことが必要である。

5 独立した非営利の機関による全過程にわたる情報公開

最後に、権力から独立した非営利の機関により全プロセスの情報を公開する。その理由は次の通りである。

○法や事業・計画(案)の作成が国や自治体と委託関係にあるコンサルタントやシンクタンクなどによって行なわれたり、法や事業・計画(案)の検討やそれを選択・決定する委員会が事実上一党から選出される首相や官僚や自治体の首長と諮問や委託関係にあったり、法の施行や事業・計画の実施後の評価が同様に諮問や委託関係にある委員会によって行なわれたり、法の作成主体、あるいは、事業・計画の実施主体である国や自治体自らが評価のために公募した者から委員を選択・決定する場合、それらの過程の公正が保障できないことから、「これらの過程は独立した非営利機関が行なうことが必要である。」と前述したが、全過程のいずれかに情報公開できない過程やブラックボックスを作らないために、情報公開についても同様に、独立した非営利の機関が行なうことが必要である

4. NPOによる独立したシンクタンク設立等について ―『公正な政策形成システム』の実施に先立ち必要なこと―

先の『公正な政策形成システム』では、多くのプロセスで『独立した非営利の機関が必要である』と記述したように、『公正な政策形成システム』に先立ち独立した非営利の機関が必要であるが、その他にも必要なことがある。
その1つは、法の施行や事業・計画実施後の『評価』を実現すること、また、そのための根拠法、例えば、『政策評価法』を創設することである。
次に必要なことは、『公正な政策形成システム』の(案)が決定された時点で、そのシステムを具体的な政策に適用して、例えば、国家予算編成に適用するなどで、国民に説明して理解を得ることである。
『NPO』、『NPOによる日本型シンクタンク』、『政策評価法』、『予算編成能力』等については専門外のため詳細に論じることはできないが、今後ホームページ等において調査研究報告を行い、今後の課題として「公正な政策形成システムを構築することが必要である。」と記述する際は、上記の理由から、独立した非営利の機関の設立、政策評価法の創設の必要性についても併記したいと考える。

1 NPOによる独立したシンクタンクを設立することが急務

公正な政策形成システムを構築するためには、まず、法や事業・計画(案)の作成、法や事業・計画(案)の検討や選択・決定、法の施行や事業・計画実施後の評価のプロセスと情報公開の全過程で、「独立した非営利の機関が必要である。」と記述したが、公正な政策形成システムの実施に先立ち、あるいは、同時に設立することが必要なこの機関は政策を科学的・客観的根拠に基づいて作成し、論理的に説明することができるという点で『シンクタンク〈think tank〉』が適切と考える。

なお、先に議員立法で成立した特定非営利活動促進法〈通称:『NPO法』、平成十年三月二十五日法律第七号〉がその対象を『特定非営利活動を行うことを主たる目的とする団体』と定めたのに対して、この『独立した非営利のシンクタンク』は、『非営利、かつ、官からも、また、民間企業からも独立した機関』を対象にする点で前者とは異なる。また、これは今後自治体の条例と関連付けて検討されることが必要と考える。

2 政策評価を行なうための根拠となる法律(仮称『政策評価法』)を創設することが必要

次に、政策評価のためにはその根拠となる法律、例えば、仮称『政策評価法』を創設することが必要である。
ここには、評価に必要な予算措置と評価基準を作成する機関や評価する機関を「独立した非営利の機関とすること」が明記される。
なお、日本で最近創設された『行政機関が行う政策の評価に関する法律(平成13年法律第86号)』は、「行政機関が『・・必要な観点から、自ら評価する。・・』」と定めているのに対し、仮称『政策評価法』は「行政業務を評価するための基準の作成や評価は独立した非営利の機関が行なう。」と定める点で異なる。

3 公正な政策決定システム〈案〉に基づく『国家予算編成』の試み

次に、以上の『公正な政策決定システム』については、そのモデルとして〈案〉に基づき『国家予算編成』を試行することが適当と考える。
その理由は、「予算は国家政策目標を達成するための重要なメカニズムであり、予算編成能力こそが健全な市場民主主義に必要なものといえる。国家統治能力は予算編成能力である。」(注3)と言われるように、『国家予算編成』は国民の税金を使って行なわれる予定の政策に国の財源を振り分ける作業(注4)であり、また、社会資源を再配分するという意味でも重要な作業であるので、これをモデルに『公正な政策決定システム』〈案〉を実行して、そのプロセスを情報公開しながら国民に説明することは、国家予算とこれを編成する政策形成システムの両方の公正について国民の理解を得る適切な機会であると考えるからである。
なお、予算編成部局は内閣府とは別の独立した機関として、議員立法により、議会局に設けることが適当と考える。

(注1)「公的政策が必要だ、必要だ。」と言い続ける『政策提言型研究』については疑問があるが、『政策形成システム』について論じる本テーマから反れるので本編から外した。
しかし、別の観点からの疑問と新たな状況に対する期待があるのでここで述べたい。
それは、「『国や地方自治体が直接経営する『現業』、『官業』などの事業(以下、『公営事業』と略称)』は営業時間帯等の点で利用効率が悪く、企業努力の欠如や多大な人件費と安い料金等の点で費用効果が低く、専門家不足のため利用効果が低い等の批判があるにも係らず、また、阪神・淡路大震災や各地の洪水被害時の救助活動で多くの『NPO等の非営利組織(以下、『NPO』と略称)』が活躍して好評であったにも係らず、『政策提言型研究』において未だに『公営事業』や『公共事業』、『公的施策』を求める理由は何か。」という疑問であり、別の観点とは以下の2点である。
1つは、『官=公共』という日本の現在の考え方に対する疑問と新たに登場した『NPO』が介在する『新たな公共』への期待であり、2つは、『営利を目的とする民間企業(以下、『民間企業』と略称)で働く会社員など』と『官に代表される機関(以下、『官』と略称)で働く公務員』の2つしかない日本の現在の労働市場に対する疑問と『NPO』が介在する『新たな市場民主主義の形成』への期待である。
まず、『官=公共』という考え方に対する疑問と新たな状況に対する期待について述べたい。
日本で『個人』に対する『社会』の用語が政策分野の国民健康保険制度や介護保険制度などで「個人に代わって社会が行なう。」という文脈で使われる場合、その社会とは『公共』を指すことから、その文章は「個人に代わって公共が行なう。」ことを指す。そして、「公共が行なう。」とは、「『社会資源の再配分』としての税金を使った政策、国の予算編成の結果実施される政策を通じて行なう。」と読み替えることができる、つまり、社会資源の再配分=公共(=社会)政策を意味すると考えることができるので、『公』の用語は公共事業、公営住宅、公務員などに代表される『公共』を意味し、その結果、公共は民間に対する『官』を意味することになり、今日に至っている。
しかし私は、利用効率の悪さや費用効果の低さ、企業努力の欠如等先述した『官』の事業に対する疑問と最近の『NPO』の活躍を考えると、『NPO』が行なう事業は実態として公共(=社会)事業に近いと考えるので、今や従来の『官=公共』の考え方は改める時期に来ていると考える。
そして、『NPO』を仮に『新たな公共』と呼称するなら、この『新たな公共』の活躍を認め、地域の実態に即した的確な事業を遂行する組織としてこれに期待するものも少なくないであろう。
それ故、これらの点から私は、『官』や『公共』の施策を求め続け、それをまとめや今後の課題として結ぶ研究の方法や方向は今後見直す必要があると考える。
次に、『会社員』と『公務員』の2つしかない日本の労働市場に対する疑問と新たな状況に対する期待について述べたい。
最近の学部や大学院出身の学生の中には、かつて祖父母や両親が働いてきた『営利を目的とする民間企業』に就職することを嫌い、また、『官に代表される機関』で働くことを躊躇し、単発的なボランティア活動やフリーター、あるいは、ニート(注5)などで寝食を満たす者も少なくなく、これらを勘案すると、『会社員』と『公務員』の2つしかない現況の日本の労働市場を見直し、また、日本以外の国、特に、米国において『NPO』が市場民主主義の一定の割合を形成している状況に学ぶ必要があると考える。
これは日本で最近創設された特定非営利活動促進法(平成10年法律第7号、公布:平成10年3月25日)と関連があるが、しかし、特定非営利活動促進法は『特定非営利活動を行うことを主たる目的とする団体』を対象にしているのに対し、今後市場民主主義を形成することが期待される『NPO』は、『民間企業』と『官』の両者から区別される『非営利、かつ、官からも、また、民間企業からも独立した組織』を対象とする点で現状の法制下のNPOとは異なる。
そして、本編で述べた『公正な政策形成システム』が日本で実現し、同時に、あるいは、それに先立ち『NPOによる日本型シンクタンク』が設立された際には、『民間企業』でも『官』でもない組織で働きたいと望む学部や大学院出身の学生などがこの『NPO』に職を求め、『民間企業』や『官』で働く者等と同程度の年収を得ることができ、近い将来日本でも『民間企業』と『官』と『NPO』とのこれら3つの組織が市場民主主義を構成することに期待したい。
それ故、これらの点からも私は、『官』や『公共』の施策を求め続け、それをまとめや今後の課題として結ぶ研究の方法や方向は今後見直す必要があると考える。

(注2)ここでは友人がある会合で行なった会話の次の一部を引用して編集した。
なお、会話の詳細については、既に他のウエヴで紹介したので、(注6)を参照されたい。
「・・・『権力を持つと誰もが悪いことをする。』のだ。
アメリカはいろいろな意味で問題の多い国だが、『権力を持つと誰もが悪いことをする。』、だから権力を必要最小限にする。『政府は小さければ小さいほど良い。』という考えがアメリカの民主主義である。
『権力を持つと誰もが悪いことをする。』、だから税金を使って作られる政策は政党が作るのではなく、『ノンプロフィットの独立した機関』が行うべきである。政策は市民に全て『情報公開』されるべきである。そして、政策の実施はノンプロフィットの独立した機関によって『評価』されるべきである、という考え方がアメリカの民主主義である。
また、『権力を持つと誰もが悪いことをする。』、だから、市民が常に『監視』することが大事である、という考え方がアメリカの民主主義である。・・・・・・・・・。」

(注3)上野真城子、ルドルフ.ペナー:「高齢化社会における政策優先性―日米共通の視点から―」、第2章 「日本の改革のためのインスティテューション・モデル:予算能力」、NIRA研究報告書 NIRA RESEARCH REPORT NO.20030030

(注4)2009年10月22日NHKのニュースで新政権下の国家予算を縮小化するための『事業仕分け』の報道があり、実践例として神奈川県小田原市の(赤字事業と報道された)『備蓄用飲料水』製造の仕分けの風景が紹介された。そしてそこではスポーツを経験した者なら誰でも可笑しいと感じる光景、例えば、選手やオーナーがジャッジに加わるという光景、事業実施主体である市の職員が可否判定に加わり手を上げるという光景があった。正にこれぞ、「党や首長が変わっても地方分権化されても、政策形成システムそのものが変わらなければ変わらない。」事例であった。

(注5)日本では厚生労働省と内閣府の二つの定義があるそうだが、現在は厚生労働省による定義が「政府の公式見解」とされているので、ここでは前者を用いた。(2009.11.30)

(注6)若杉幸子:『アメリカの民主主義のシステムを日本に』―果敢に挑戦しつづける友人のこと―』、WJWN VIEWS 2008年(秋号) 特別寄稿

この原稿は、『若杉幸子オフィシャルホームページ:・2010年2月22日』 に掲載した原稿のオリジナルです。

 

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更新日: 2011/11/24 -04:52 AM