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独立シンクタンク今こそ必要 政策代替案を提示 選択肢ある民主主義へ - 「経済教室」日本経済新聞

戦後五十年、外から見る日本は混迷と漂流を始めているようだ。この時期を日本がどう乗り越えるか、どのような選択をするのかは、日本自身のみならず、アジアおよび世界にとって重要な意味を持つ。アジア太平洋経済協力会議(APEC)を前に十一月六日から二日間、関西学研都市で「アジア太平洋シンクタンク会議95」が開かれ、都市環境問題に取り組むアジアのシンクタンクが会する。

混迷の日本知恵 乏しく

  1. 民主主義社会は、国民は複数の政策の中から自由に選択できる社会でなければならない。だが、日本は複数の政策を提示するための政策研究が未熟で、国民は幅広い政策の中から最善と思われる選択をすることが困難である。
  2. 複数の政策を用意する研究機関(シンクタンク)は、政策研究をもとに、政策代替案を提起し、政策形成と一般への普及に果敢に闘う民主主義の必需品である。そこで、民間の非営利独立のシンクタンク設立を提案したい。
  3. 戦後五十年を経て、混迷と漂流を深める現状を乗り切るためにも、シンクタンクなど民間の非営利活動を支える経済、法律制度や財源が必要である。

戦後五十年、外から見る日本は混迷と漂流を始めているようだ。この時期を日本がどう乗り越えるか、どのような選択をするのかは、日本自身のみならず、アジアおよび世界にとって重要な意味を持つ。アジア太平洋経済協力会議(APEC)を前に十一月六日から二日間、関西学研都市で「アジア太平洋シンクタンク会議95」が開かれ、都市環境問題に取り組むアジアのシンクタンクが会する。

いずれも日本のリーダーシップを示す好機といえるが、一方で、日本の力量を見極めようとする目が日ごとに厳しくなっていることも事実である。なぜなら、日本に問題解決のための知恵が噴出し、実現のための活発な議論がなされているようには見えず、それを推進する民間の主導力が明らかではないからだ。

今年二月には東京で、世界シンクタンクフォーラム「日本に独立シンクタンクは必要か―市民中心の民主主義社会と政策形成」を開催した。その内容は近く英文出版されるが、会議には米国、欧州、メキシコ、アジア各国のシンクタンク界のトップが参加した。

この中で米元国防長官ロバート・マクナマラ氏は「世界は大きな変化の時代にあり、この変化は希望と機械を与えるものだが、変化の速度は速く、理解に遅れればこれに影響を与えることもできない。今経済力と革新的なアイデアを持ち、危険とコストを負担する国々のリーダーシップが必要で日本がその役割を果たすことを期待する」と発言した。そして、そのためには国内に独立的な政策論争があること、非政府の民間資金に支えられたシンクタンクが必要であると指摘した。

民主主義社会とは、唯一の固定した理念や制度で決められるものではなく、いくつかの政策から最善と思われるものを選択でき、ある範囲で異なる試みができる社会のことである。何が問題なのか、どのような解決の方法があるのかが考えられ、政策として提言、実施されなければならない。この過程に役割を果たすのが独立的な政策研究機関、シンクタンクである。

米国の社会も混乱にあるように見える。例えば、現在進行中の福祉医療制度の改革は、ここ三十年の国の役割を大きく転換しそうだ。この論争には私の所属するシンクタンクを含め、多くのシンクタンクがその「知」の蓄積、政策研究の成果をもって提言を競い、民主主義の手続きを踏みながら、いかに修正と変革が可能かを探っている。結果は、立法者と有権者にゆだねられるが、それはやみくもの判断によるものではない。

日本の民主主義制度は司法・立法・行政の分離独立性が厳密でなく、官僚に政策形成と実施が実質的に任されてきた。各省庁は管轄業務の既得権益を守ることから政策を発想し、最終的に財政を握る官庁に国の方向を決められ、かつ明りょうな個人や機関に責任が帰結しない、全体として堅牢(けんろう)な権力を形作った。

この日本型の政策形成は経済発展期の国家の資源の効率的配分と公正に寄与したとはいえるが、情報を独占した官僚制は閉鎖的であり、民主主義の人々によく知らせ、人々の参加による政策形成という原則と、政府から離れた民間の監視と批判が健全な民主主義に不可欠であることを無視してきた。その弊害が日本の混迷をもたらしている。

 

求められる 民間の「知」

今すべきは、様々な問題の本質を明らかにし、解決の方向を示す「政策」の選択肢を用意し、議論することである。必要な変革のためには官僚が形成してきた政策に代わる案が出されなければならない。「知」を競い「政策形成」のイニシアチブを民間が取ることが必要である。

「政策」の形成には明りょうな理念が必要であると同時に、情報、社会科学的分析、評価、すなわち政策研究が必要である。何のためにどの政策が必要か、何に税金を使うのか、どの政策がどのような影響を社会に与えるのか、どのような要因によって人々や社会が動くのか、それはだれにとっても最も有益となるのか。こうした裏付けのない政策は有効に機能しない。

「政策研究」は様々な科学の知識を、実際の社会の福祉と発展に使うもので、総合的かつ合理性を求める「応用科学」である。民主主義が必要とし、民主主義に奉仕する科学といえるかもしれない。

この政策研究において日本は二十年ほどの後れを取っているようだ。日本の大学および既存の研究機関は、民主主義社会と科学、国家と独立した「知」の役割といったことに議論を尽くしてこなかった。近年私立大学に新設されている政策科学系学科はこれらにこたえるものと期待される。

アーバン・インスティテュートは数年来、「日本には本格的なシンクタンクがつくられなければならない。それらは政策理念と政策研究に基づいた政策代替案を提示する核としての研究および提言組織であり、そうした核を(複数)形成する必要がある」こと、「そのシンクタンクは政府官僚機構とも、営利企業からも離れた、民間非営利独立のものであること」を主張してきた。これを「グローバル・ポリシー・センター・オブ・ジャパン」というモデルで提案しているが、政策研究に取り組む、明りょうな顔のある国際的シンクタンクを設立するアイデアである。

このセンターは世界の民主主義社会への信念と信頼をもって、政府機関から離れ、民間の立場で政策の形成に影響を与え、そのことによって日本の社会とその国際化、そして世界の市民社会へ貢献しようとするものである。政策の優先課題を示し論争の場を提供し、政策の監視者であり、「開かれた」研究と運営、国内のシンクタンク産業の強化と成長に寄与する。国内外に向けた発信者、健全で建設的な提言者であることを目指す公共の機関である。

センターにはグローバルとナショナルの二つの政策研究部門が併存する。二十一世紀には特定の国益から判断できないグローバルな政策課題が激増する。例えば、国際機関、世界経済、開発、援助、人口、資源エネルギー、環境、難民移民、人権など、いずれも新しい視点と研究体制が必要である。

特に、環境を超えるグローバルな市民社会の構想など、このセンターが世界に貢献できる課題は多々ある。

非営利支える 制度など必要

ナショナル部門では国内政策を研究する。民間が取れる情報が限られているが、それでも安全保障、核問題、外交国際政策への民間からの提言はできる。都市関連問題(グローバリゼーションと都市経済、土地、防災、分権など)や、高齢化福祉問題などは即刻に取り上げられなければならない課題である。

こうした課題チームで、調査、解析、政策分析、評価し、影響、効果などを研究する。研究体制、規模などは変化するが、常任コアのスタッフをもった百五十人から二百人が望まれる。スタッフには自由な研究活動と同時に、厳しい批判に耐え、現実社会への働きかけにもすぐれた人材が求められ、かつ彼らがダイナミックに流動する。

この提案は米国の独立シンクタンクをモデルにしており、現在の日本では成立しないといわれる。なかでも障害は(1)民間非営利公益団体の許認可制度(2)こうした機関の設立と研究、運営の資金がなく、それを促す税制措置のないこと(3)雇用慣習などからくる人材の不足(4)情報が取れず、提言が反映される道がないこと―などにある。

しかし、たとえインターネットによる情報革命があろうとも、真摯(しんし)な思考と知的鍛錬、論争の場としての明りょうな政策形成の核をつくる必要性と緊急性は増している。

日本の将来は、民主主義、ことに「知」の産業興隆へ貢献することにかかっている。だが民主主義の成長もまた、ただではない。米国の国民総所得の七%、雇用の一割ほどを占める民間非営利公益セクターは米国の民主主義の保全への民間の投資といえるものである。税金にも企業収益にも依存しない、非営利の公益活動を支える経済である。シンクタンクが独立的に政策提言するためには行政に管理されない制度と財源が必要である。

もちろん米国では、これがすべて政策形成にまわるわけではなく、シンクタンクが財源を求める競争は厳しい。しかし、大型民間財団をはじめ、企業、個人も、狭い利益から離れて、政策研究に膨大な資金を投じてきた。そしてそうした資金を提供する意欲を促す法律制度と仕組みが出来ているのである。

経済の成長と持続的世界の構築は、参加による民主主義の成長と分離できない。日本はこれまで強大な経済力(生産力)を生み出すことに成功したが、一方で市民社会の成熟は著しく遅れてきた。この不均衡が国民のための有効な政策決定を妨げ、いまや経済そのものの基盤を危うくしている。日本に民間非営利公益制度を整備し、独立系シンクタンクをつくることは、市民社会成熟のための急務であり、同時にこれは武力をもたない日本がアジアと世界に貢献できる最善の方法である。

  • アーバン・インスティテュート:ジョンソン政権下の1968年、政策評価を課題としてワシントンにつくられた民間非営利独立の政策研究機関。
米アーバン・インスティテュート 研究員 上野 真城子
1995年(平成7年)11月1日(水曜日)
「経済教室」日本経済新聞

 

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更新日: 2011/01/30 -05:37 PM