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日本に「政策形成産業」必要 米では政治支える 国の行方を多様に議論  - 「経済教室」日本経済新聞

行政改革は必須(ひっす)である。しかし、審議会や諮問委員会による改革が、どのような総合的な社会像や国政の基本方針に基づくのかが、国民には明りょうでない。行政改革は単に官僚制の硬直化や腐敗をただすためのものではなく、また、小手先の組織規模の削減でもない。二十一世紀と次代に向けて、日本の社会をどう改革するかの問題であり、社会改革の一環でなければならない。

予算編成こそ国のかなめに

行政改革は必須(ひっす)である。しかし、審議会や諮問委員会による改革が、どのような総合的な社会像や国政の基本方針に基づくのかが、国民には明りょうでない。行政改革は単に官僚制の硬直化や腐敗をただすためのものではなく、また、小手先の組織規模の削減でもない。二十一世紀と次代に向けて、日本の社会をどう改革するかの問題であり、社会改革の一環でなければならない。

日本では政府予算を与党の政治家が報復予算と呼んだ。これは日本の政治の後進性を示していて悲劇的ともいえる。予算編成は国家政策の基盤をなす。これをいかに「近代化」「科学化」「合理化」できるかが、近代的民主主義国家の最も重要な政治課題である。

来週、米国ではクリントン大統領がこの十月からの九八年会計年度の予算教書を発表する。新政権はすでに実質的な政策検討に入っている。米国の連邦政府予算が卓越しているとはいえないが、予算編成に相当の努力が払われてきたことは見落とせない。

米国の予算編成は行政府による予算算定・提出、立法府議会による審議、そして執行監理の三段階に分かれる。予算教書は大統領による三大教書のひとつで、予算編成の第一段階である。

予算教書は大統領の方針に沿って、政府予算局(OMB)が次年度とその後の四年のガイドラインとして明らかにするものである。OMBは効率的な行政府機能の執行、開発や維持を助けている。スタッフは約五百二十人で年間予算は約五千五百万ドル。OMBのトップ人事は大統領の政策執行の要(かなめ)となり、非常に重要である。

議会は大統領の予算提案を検討、承認、修正変更、不承認し、税や他の収入源の加算や削除なども出来る。議会予算は日本の千二百二十七億円(九五年度)に比べ、二十六億七千万ドル(九四年度)と二倍以上である。

連邦議員の数は五百三十五人と日本より二百二十六人少なく、国民一人当たりでは三分の一である。議員報酬は九四年は年間十三万六千ドルと一般的にみて多くはない。議会スタッフは約二万四千人、日本の約五千六百人に比べて四倍。上院の議員スタッフは議員一人当たり平均で四十二人、下院議員は十六人である。スタッフの多さは、議会とその委員会の政策形成力とも関係する。

議会は大統領の提案に不満があれば、代替案を提起しなければならない。個々の議員や政党が対案を出すわけだが、議会はそのために立法府として対案作成をサポートする三つの主要な機関を待っている。

資金の使途を厳正に監査

コングレッショナル・リサーチ・サービス(CRS)は最も古い。一九一四年に設立され、議会に情報と政策分析を提供するのが目的だ。スタッフは七百四十七人、年間約五十万件もの議員らの質問に答えるが、その三分の二は即日に回答している。スピードに特色がある。CRSの活動は原則として機密を保持することになっている。CRSは政府のために活動することはない。

二つ目の米会計監査局(GAO=ゼネラル・アカウンティング・オフィス)は、議会に属する無党派独立の機関で、一九二一年の予算会計法に基づいて設立された。最大の責務は政府機関がかかわる公的資金の受け取り・支出・申請を調査し、会計監査することにある。

GAOが誕生したのは、予算作成能力の強化のため行政府にOMBが作られた時点で、OMBに対抗し、承認された予算がいかに使用されたかを見極める機能が必要と議会が考えたからである。GAOの独立性は、責任者の任期に特徴的に表わされている。責任者である米会計監査院長は連邦政府の会計検査官で、議会の承認を得て大統領が任命し、任期は十五年で再任はない。GAOのスタッフは約四千三百人(九五年)だが、削減されつつある。

スタッフには多様な分野の人間が採用されるが、最も多いのは行政や公共政策の計量の出来る人材である。もちろん公認会計士が多いが、エコノミストをはじめ医療、軍事、税とあらゆる分野の専門家を含む。議会の委員会や個々の議員の要請によって、政策分析から法律的な助言、サービス、議会提出前の立法準備を手伝う。三十日間は保留できるが、GAOのリポートは基本的に公開である。

議会予算局(CBO)は三つの機関の中では最も歴史が浅い。七四年につくられ、議会の予算策定と立法化を助けるため、経済と予算にかかわる情報を提供するのが役割で、議会機関の中で唯一経済予測と推定を行う。予測は民間の予測に近く、行政府よりは楽観的でない。

CBOのOMB予算に関する分析は一般に高い評価を受けている。CBOはリポート作成と並んで、議会の各委員会の公聴会で証言することが重要な機能である。CBOの長官の任期は四年。スタッフは九五年で二百十四人である。

さらに民間機関が政府を監視し、代替案を提起するところに米国の強さがある。民間非営利独立のシンクタンクや大学などの学術研究機関、民間営利の政策研究機関などがある。特に、重要なのは独立シンクタンクである。これらは政府の予算作成、歳出に科学的にアプローチし、提言している。そして、これらの政策形成と研究には多くの民間財団が資金を供給しているのである。

代替案に需要経済的に成立

これらの政策形成機関が「産業」として経済的に成り立つのは、政策の代替案を必要とする需要層があるからだ。それは政治家であり、政策担当者、実務者、企業、メディア、研究者、学生、市民である。

こうした機関をつなぎ、産業を振興する「フォーラム」も存在する。いわば、学際的学会ともいうべきものだが、広範に情報と人のネットワークをつくり、雑誌や学会・セミナーなどの開催によって全体をつないでいる。

重要なのは、これらの主要組織間を政策研究者、政策担当者が移動することである。大学から政府機関、シンクタンクという具合にアナリストや官僚が移動する。今回の新政権も政府機関のトップに多くの人事異動がある。彼らはシンクタンクや実業界、学界から移動し、前任者は様々な政府以外の機関へ移って行く。情報公開とこうした移動によって、新しい政策が考案され、政策はより合理性のあるものになるはずである。

政府内独立組織、非営利や営利のシンクタンク、学術研究機関などを合わせた産業は、ある程度の市場規模を持っている。推論にしか過ぎないが、二万人ぐらいの研究者を雇用すると考えられる。周辺にサポートスタッフが付き、研究者予備軍もいる。

米国の民主主義政治の強さは、政策形成産業と市場の存在にある。そこに流れているのは、「Help Government Think」(政府が考えることを助け)、「Help People Think」(人々が考えることを助ける)がなければ、民主主義政治は育たない。また、多様な政策が出されてこそ、政府が良くなり、統治が改善されるという信念である。

米国のベトナム進攻の過ちを認めた記録で、ロバート・マクナマラ元米国国防長官は「複雑な事象に直面し、海図なき航海にあって、行く手を変えなければならない事態に国が立ち向かうにはどうすれば良いのかを準備していなかった」ことを反省して、国の行動や政策を、目的、危険性、代替案、そして失敗が明らかとなった時の方向転換の必要性などを分析し討議する必要を指摘している。

今、日本人の知識人が貢献できることは、最大の努力、知恵と知識で、より良い代替政策を早急に広範に生み出すことである。代替政策を議論し、政治家に学ばせ、有権者を説得し、合意形成を図り、リーダーシップを取ることである。これらは民間が主導し、企業だけではなく財団や個人を含めて資金を提供し、政策形成への一連の作業を行う有効な機関を生み出すことである。

 

  • (1)予算の編成は近代的民主主義国家の最も重要な政治課題である。ところが日本では、「報酬予算」発言に代表されるように、政策形成がまともに近代化していない。
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  • (2)米国では、予算算定・提出、議会審議、執行監理の三段階にわたってかなりの努力が払われている。これを支えるのが、「政策形成機関」であり、産業として経済的に独立している。
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  • (3)国の政策や行動が失敗に終わった場合、早急に代替案を打ち出し方向転換をするためにも、日本に政策形成機関を産業として根付かせることが不可欠である。
  • アーバン・インスティテュート研究員、ワシントン在住 上野 真城子
    1997年(平成9年)2月1日 土曜日
    「経済教室」日本経済新聞

     

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    更新日: 2011/01/30 -04:55 PM