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新規事業費の1%を政策評価に - 「論壇」朝日新聞

来年度初頭の省庁再編は、効率的で国民本位の政府を目標とし、政策評価の導入によって、政策の質と政府の説明責任(アカウンタビリティー)を高めることを目指すもの、とうたわれている。これは、日本が時代に対応する政治と政策のリーダーシップを持てるか否かの、唯一の機会であろう。米国の政策産業で働く研究者として、この改革と政策評価導入に批判と提言を試みたい。

来年度初頭の省庁再編は、効率的で国民本位の政府を目標とし、政策評価の導入によって、政策の質と政府の説明責任(アカウンタビリティー)を高めることを目指すもの、と謳われている。これは、日本が時代に対応する政治と政策のリーダーシップを持てるか否かの、唯一の機会であろう。米国の政策産業で働く研究者として、この改革と政策評価導入に批判と提言を試みたい。

政策は、税金で社会の問題を解決するための、社会および個人への働きかけであり、変革の方途である。戦後日本の官僚行政は、この政策をいわば独占してきた。政治家は政策形成を官僚に任せ、ときには利権の道具としてきた。国民は政策に声を反映する道を持てなかった。その結果は政府自身の政策形成能力の低下になり、政府への信頼は失われた。これが現在の社会の無力無関心と閉塞感の根本にある。

政策と政治の乖離(かいり)は、政策の「決定」に対する認識の欠落に起因する。民主的国家の政策が全体主義国家の政策と異なるのは、政策の「決定」に政治と国民がかかわることにある。

今回の政策評価の導入において、これまでの政策の「立案―実施」を「立案―実施―評価」のサイクルにすることを掲げてはいるが、「決定」に対する認識がない。これでは、政治と国民が無力なままに、効率的行政府を強化し、官僚が政策形成を再度独占することになりかねない。

米国の社会は、「決定」にいかに国民が関与し、これを透明で合理的なものとするかに膨大な努力を払ってきた。とくに一九六〇年代、政権の中枢に社会経済学者と民間人が大量に起用されたこと、そして政府の政策形成に科学的・システマティック(体系的)な分析と思考が導入されたことは大きい。

当時、貧困解消を目指す大型政府投資にもかかわらず、都市暴動が起こり、政策の見直しを迫られた。省庁につくられた分析評価局の専門家たちは、平等を原則とする民主主義と、効率追求の市場経済とを両輪とする矛盾の中で、国の予算の公正な配分を説明することを求められた。これが評価の原点である。

政策評価は、予算配分の合理性や政策の公正性を説明する知識を得る手段であり、よりよい代替案を示唆する情報であるが、決して「決定」に置きかわるものではない。もとより、行政の担当部局が自己防衛のためにすることではなく、客観的研究として独立的な政府外の知恵が投入されるべきものである。以来三十年余、米国はこうした思考の蓄積によって政策形成と「決定」を強靭なものとし、財政黒字をも可能にした。

米国の政策形成産業の創出には、もうひとつ、六六年の一%政策評価保留条項の制定が寄与した。これは、新規事業の予算の一%を保留し、長官の裁量において評価研究に差し向けるものである。これが民間財団の資金と合わせ、ことに独立・非営利シンクタンクの興隆と、政策分析研究の振興を助けた。

日本の省庁再編では、総務省や各省庁に、評価室などの機構が整備されるが、それらには少なくとも数十人の専門研究者を置き、その半数以上は外部から導入し、執行担当部局から離れて、独立的に、中長期の視野と政策理念の検証を含めた、本格的な政策分析評価研究を行うことを提言したい。

そして、公共事業を含め新規施策事業費の一%は評価研究に保留する。この資金により、政府の内部と併せ、政策の外部が政策分析評価を行い、政策情報を整備し、政府のアカウンタビリティーを高める。それを基盤として、政府自らが、内部と外部に政策形成力を持つ人材をもち、政策形成産業の振興と強化をはかることが可能になる。

民主主義は終わりのない行進であるといわれるが、この行進には近道も抜け道もない。不確実な混迷の二十一世紀の社会を生き抜くためには、人々の多様な、膨大な思考が生み出されなければならず、そのための投資が不可欠である。

上野 真城子 アーバン・インスティテュート研究員、ワシントン在住)
2000年(平成12年)12月1日 金曜日
「論壇 オピニオン◎opinion」朝日新聞

 

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更新日: 2011/01/26 -12:44 PM