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立法府強化 行動の時 - 「論点」読売新聞

日本の社会が直面している最大の問題は、内外の識者がしばしば指摘するように、外交、金融、年金、土地などの多くの政策が破綻しつつあることばかりではない。政策担当者たちが、代わりのアイデアを出し、活発で広範な論議を経て決定し、変革に移せないことである。この結果、日本はこの激動の時代に、致命的な遅れをきたすことになるかもしれない。

日本の社会が直面している最大の問題は、内外の識者がしばしば指摘するように、外交、金融、年金、土地などの多くの政策が破綻しつつあることばかりではない。政策担当者たちが、代わりのアイデアを出し、活発で広範な論議を経て決定し、変革に移せないことである。この結果、日本はこの激動の時代に、致命的な遅れをきたすことになるかもしれない。

先の通常国会では、多元的な市民社会のために緊急に求められている民間非営利法人(NPO)関連法案が議員立法によって成立するものと期待されたが、肝心の与党案は提案もされなかった。五五年体制が崩れ、今ほど立法府の政策形成能力が問われている時はないのだが、こうした状況が続くかぎり、いくら政治改革、行政改革を叫んでも、国民を始め国際社会の理解と共感は得られない。

官僚行政のみが肥大し権力が集中し情報が独占された時は、そこで生じる政策の誤りを阻止し修正し難い。また、それがいかに優れた能力といえども、他からの批判や監視、競争がないと低下と腐敗を免れない。民主主義政治の三権分立は、不可欠なのである。

日本の政治家や政党は、この当然の立法権の強化ということに対し、あまりにも無関心だったのではないか。しかし、ここでは過去のことより、今可能な立法府強化のための提案をしたい。

国会に属しかつ無党派独立の政策予算局を設置すること、政府機関外の民間独立型シンクタンクを設立すること。すなわち、立法府の政策形成力を育て補完する機構を整備することである。

実際問題として、政策形成は容易ではない。その理念の構築から始まって目的、手段、費用財政、運用、そして個々の政策の及ぼす他への短期長期の影響、それをどう評価するかなど、科学的知識と情報が駆使されて作られなければならないものである。

近代民主社会の政策形成にはその時の最高の知がかけられてしかるべきだが、それでもなお完ぺきな政策は望み難いものなのだ。だから政治家は、様々な政策の知識を外に求める必要が出てくる。そのためには、組織だった学びの機構があって当然なのである。

私はここ十年余、米国有数の独立シンクタンクで政策研究を続けてきた。米国社会には様々な問題があるのは事実だが、少なくとも政策形成機能を高める多くのメカニズムが働いていることを知り、日本にもこうしたメカニズムが必須であると痛感してきた。

例えば、米国連邦議会は議員数は日本よりはるかに少ないが、政策形成をサポートする強力な機関を持っている。際立ったものとして、議会調査局、会計検査院、議会予算局がある。

議会調査局は日本にも似たものがあるが、こちらはもっぱら議員や委員会の要請にこたえて調査と正確な情報の提供にあたる。スタッフ七百余、年間予算約六千三百万?である。

会計調査院は、日本と異なる立法府に属する無党派独立機関。立法府が行政府をチェックし、予算運用を見極める能力を持つことが設立意図で、単なる政府機関の会計検査にとどまらず、既存政策の修正や存続の判断のもととなる政策評価を行う。長官の人事に独立性を確保する配慮がなされ、あらゆる分野の専門家がスタッフとして政策分析に従事し、議員や委員会の立法作業も手伝う。

議会予算局は一九七四年設立の比較的新しい組織だが、議会が大統領予算局に対抗して予算案づくりができるようにすることを目的としている。そのため大統領府と別個に経済予測を行い、議会に情報を提供する。優れた研究者を四年任期で長官に迎え入れ、スタッフは二百人余、予算は二千百万?。この公聴会での証言は議会の政策形成に大きな影響力を持ち、出版されるリポートも会計検査院のものと並んで米国の政策の質の高さを示している。

政策研究と提言はこれ以外に、いくつもの民間独立シンクタンクが行い、もちろん大学等の研究機関も従事している。こうした活動を、やはり独立型の民間財団が資金を与え支える。これら全体が政策形成のための産業になり、政治家がこの中から政策を学び取り上げ利用することで、いわば”政策関連市場”ができる。この市場は政策にかかわろうとする多くの優秀な人材を引き付け、彼等は情報を持ち政府機関やシンクタンク、大学等を自由闊達に移動し政策を競い合っているのである。

米国に限らず政治家に与えられている役割は、よりよい統治に向けていかに適切な政策を作り出せるか、いかに多くのよく知らされ啓発された市民を参加させられるか、いかに合理的民主的な合意形成を可能にするか、にある。

こうした役割と責任を果たし民主主義政治を維持、向上させるためには、それなりの制度と機構、そして投資が必要なのである。日本の立法府は今、機能強化のために具体的行動に立ち上がらない限り、自らの存立も危ういのではないだろうか。

米アーバン・インスティテュート国際活動センター部長レイモンド・J・ストライク 研究員 上野 真城子

工学博士。著作「世界のシンク・タンク」など。住宅政策、NPO研究。ワシントン在住。51歳。

1996年(平成8年)8月21日(水曜日)
「論点」読売新聞

 

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更新日: 2011/01/30 -04:59 PM